編集者要約
東アジア域内の経済的相互依存関係は深まっているが、地域共同体の構築に当たっては安全保障問題が障害であり、なかでも最大の問題は米国・日本と中国の相互不信である。信頼関係確立のために、米中,日中間で戦略的対話を重ね、将来の三カ国対話実現を目指すべきである。
東アジア共同体 安全保障が障害
航空自衛隊幹部学校(東京・目黒)で1月20日、「米大統領選挙後の国際秩序」をテーマに安全保障シンポジウムが開かれた。座長は神谷不二慶応大学名誉教授、パネリストはジェラルド・L・カーティス米コロンビア大学教授、渡邊昭夫平和・安全保障研究所理事長、田中明彦東京大学教授と筆者の4人で、非常に有意義なシンポジウムであった。この討論を踏まえて、米中日三国間の戦略的対話を促進する仕組みをつくるよう提案したい。
現在世界は、主権国家時代から国家主権相対化の時代に入っている。欧州連合(EU)の形成は正にそれを象徴する出来事であった。世界的統合も決して夢ではなくなった。しかしそこにまで達するには、長い道のりを経なくてはならない。この過渡期の国際関係の特徴は、相互牽制(けんせい)と相互協力が同時進行する中で、徐徐に後者のウェートが高まっていくことだ。当然、それは曲折を経るものであり、時には牽制面が突出し、ある種の緊張感が生じよう。しかし、それを冷静に分析し、時代的流れを見失わないようにする心構えが肝要だ。
2030年頃までは、米欧亜三極時代の形成期と見ることができよう。経済のグローバリゼーションが進む中で、そのプロセスの一環として、地域統合が不可避となっているからである。NAFTA(北米自由貿易協定)とEUの拡大を受けて、東アジアも一つにまとまろうとしている。昨年11月のASEAN(東南アジア諸国連合)プラス3(日中韓)の非公式首脳会議で、東アジア共同体の構築を長期的目標と定め、今年末、マレーシアでの東アジアサミット会議の開催が決まったことは、歴史的な意義がある。
ただし、東アジア共同体の構築に当たっては、多くの難題が控えている。主として安全保障にかかわる障害である。経済的には、東アジア域内の相互依存関係はますます深まっており、東アジア経済共同体の形成はもはや疑う余地のないものになった。当然、それは政治や安全保障問題にまで発展するものだが、政治と経済の間には懸隔があり、人為的努力なくしては実現できない。とりわけ国家主権と密接なかかわりがある通貨統合問題は、相互の政治的信頼なくして達成できるものではない。
東アジアにおいて、安全保障面での最大の問題は、中国と米国・日本の相互不信にある。現在、日米軍事同盟が強化される中で、米日共同の対中牽制と、中国の対米日牽制が突出しているが、米国の対日牽制、日本の対米牽制がないわけではない。とりわけ日本の世論には、自主的・多角的外交を展開すべきという意見も根強くあり、現在の図式が変わらない保障はない。
そこで、このような相互牽制を弱めて、相互協力の度合いが高まるようにし、より安定的な三国関係を確立していくことが重要だ。すなわち、米中日三カ国間の戦略的対話の場をつくり、相互信頼を醸成して、東アジア安全保障の土台を構築していくことが求められる。それは不可能であろうか。
まず米中間の基本的目標が全く異なるものであろうか。ライス米国務長官は「中国と共通の利益に向けて率直で協力的、建設的な関係を築きつつあるが、価値観においてなお、かなりの相違が認められる」と述べた。またブッシュ大統領は二期目の就任演説で「自由を世界全体に拡大する」「すべての国と文化において民主主義の発展を求め支援する」と述べ、「究極の目標は専制政治の終焉(しゅうえん)」とその決意を表明した。
中国指導部は 国際協調路線
そこで、米中間の「価値観の相違」及びアメリカの「自由と民主主義の世界的拡大」の意志が強調され、中国とアメリカの基本的対立に目を向ける傾向がある。しかし、専制的社会主義から民主的社会主義に移行しつつある中国と、自由な精神と民主主義を堅持しようとする米国とは、十分共存し得るし、新世界政治経済秩序を建設するパートナーとなり得る。
次に、中国は米国の戦略的ライバルであろうか。中国が経済的にも軍事的にも強大になったとき、覇権を求めてアメリカのヘゲモニーに挑戦するのではないかという見方が広く存在する。とりわけ、台湾への武力行使と海洋権益保護のための海洋戦略が打ち出されてからは、周辺諸国の警戒心を引き起こした。筆者は、これは平和的台頭を標榜する中国の対外政策に反すると批判論文を書いた。意外にも、それが中国の権威ある理論紙「国際先駆導報」(04年9月27日号)にカットされず掲載された。それは次のようなものである。
「中国国内で『国の海洋権益を最大限に守り』、『遠洋海軍建設に力を入れて』、『海洋強国戦略を進める』との議論が盛んに行われた。その結果、従来、南シナ海と尖閣列島問題で中立的態度をとっていた米国が、いまや限定的介入姿勢をとり、ASEANや日本の肩を持って、中国を牽制している。これは中国の平和的建設に不利で、平和的台頭の実行にも不利である。」もちろん、これが中国当局の公式見解というわけではないが、こうした意見を掲載したことに、中国現指導部の国際協調路線がうかがえる。
単独行動主義 米国は修正を
また、中国は「米国に挑戦しない」とはっきり述べている。ただし、それは米国が世界各国の意見を聞き、コーディネーターのようなリーダーシップを発揮することが前提だ。もし自国の価値観、モデル、やり方を多国に押し付ける単独行動主義に走れば、それには反対し、他の国々と連携して牽制する、というのが基本的立場であろう。
現在、米国内には、単独行動主義に反対し、国連を中心とした国際協調路線に戻るべきだという世論が広く存在する。米国がいくら強くても、イラク問題で示されたように、単独行動主義は長続きしないからである。したがって、21世紀前半の国際政治において、超大国の米国と潜在的超大国である中国との協調は、十分可能である。
そして、もし米国がリーダーシップを発揮して、世界各国に受け入れられる新国際政治経済秩序の構築に成功すれば、米国は自らの「覇権」を放棄した、「最後の覇権国家」として人類史的評価が得られよう。
第三に、東アジア共同体は米国にとって受け入れられないものであろうか。現在、地域の安全保障対話組織としてASEAN地域フォーラム(ARF)がある。また、六カ国協議を、将来的には北東アジア安全保障体制に持っていこうという動きがある。東アジア共同体の中には、当然、安全保障問題が含まれ、遠くない将来、東アジア安全保障組織が生まれる可能性がある。その場合、アメリカが反対するのではないかという懸念があり、すでに米国内において強い警戒心を呼んでいると聞く。
しかし、カーティス教授は、東アジア共同体ができるのは歴史的流れであり、中国が積極的になったことは歓迎すべきことで、米国はポジティブに評価すべきだと述べた。もし米国が覇権を求めるのではなく、世界の平和と繁栄の砦(とりで)となるのであれば、各地域の安全保障は基本的にその地域の組織に任せ、米国は国連とともにそれを手助けするという仕組みをつくった方がよい。
このような方向で東アジアの安全保障を構築しようとする場合、米中日三カ国の信頼関係の確立が不可欠となる。最近、中国が米国に対し、米日のような戦略的対話の場を設けるよう提案し、米国は低レベルではあるが前向きの姿勢を示しつつあると言われる。これが実現すれば、当然、日中間でも戦略的対話が行われるようになる。
今後、5年ないし10年間、このような日米、米中、日中の戦略対話が積み重ねられ、それを踏まえて日米中三カ国の戦略的対話が行われるという道筋が考えられる。そうすればARFは活性化し、北東アジア安全保障と東アジア安全保障のシステム構築も容易となろう。その結果、東アジアでの相互牽制は、相互協力へと大きくシフトしていくことになる。
りょう・せいこう 33年生まれ。中国湖北大(現・中南財経大)卒。中国社会科学院主任などを歴任。

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