注目すべき中国の対日政策

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ある友人から次のような質問を受けました。
中国の最近の対日政策に関する注目点
 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。最近の日中関係は、改善できる見通しはなく、先日行われた日中外交局長級非公式会議でも、東シナ海ガス田問題での進展は見られず、逆に上海総領事館自殺問題で両者の対立は深まるばかりです。こうした中で、1月6日付け「産経新聞」では、次のような記事が掲載されています。

清華大學が最近創刊した「中国と世界観察」において、人民日報評論部の林治波・評論員は、日中関係について次のように分析・主張している。
○ 日中対立の火種は、過去の問題だけでなく、将来の両国の在り方に及んでいる。
○ 両国の対立は中国の台頭と、日本がそれを望んでいないという点にある。この対立は長期化し、中国人の意志では変えられない。
○ 日中双方が輸出依存体質の面で類似しており、また、エネルギー資源の争奪などで、今後、日中間の競争はますます高まる。
○ 双方は争いながら平和共存すべきである。中国としては、さらに強い態度で両国関係を処理すべきである。
 一方、時殷弘・人民大学国際関係研究員教授は「中国新聞週刊」(12月26日付け)で、次のように主張している。
○ 二つの強国の台頭は不安定な要素を誘発している。中国の台頭は日本に強い警戒感を抱かせており、日本は中国に対して軍事的に対等な政治大国を目指している。
○ 中国は、やはり対日強硬姿勢を迫られる可能性があり、こうした政策によってのみ、日本に中国の台頭を受け入れさせることができる。日本が緊張緩和の意志を示さなければ日本を可能な限り国際政治の中で孤立に追い込むべきである。
 また、王逸舟・中国社会科学院世界経済政治研究所所長は、次のように述べている。
○ 過去、アジアの一強であった日本のレベルに、中国が接近しており、東アジアで両国が拮抗する状況になっている。
○ 今後の日中関係は、「ポスト小泉においては、小泉なき小泉政治が続き、政冷は経冷を導く。両国関係は厳しさと複雑さを増し、改善は難しくなる。
○ 同地域のさまざまな問題が安定に向かうには、10数年、それ以上の時間がかかる。それまで日中間の摩擦が続くのは避けられない。
質問事項
1 対日新思考を主張していた時殷弘さえ、「日本を国際的孤立化させるべき」と述べている。これは中国当局の考えを代表とするものであるのか、それとも学者限りの考えであるのか。また、個人の考えというのであれば、人民日報の評論員はそんなに自由に発言できるのか。
2 中国人民の対日感情を緩和するため、中国当局は人民に「日中関係の重要性」を認識させるためのマスコミ工作に取り組んでいると言われるが、上記の報道はこれに逆行する動きである。その真意は何であるのか。
3 上海総領事館事件もあり、日中間の関係はさらに冷たくなっていくと思われる。胡錦濤政権は、対日関係を重視していると言われるが、こうした問題を解決しなければ関係改善は図れない。胡錦濤政権は関係改善を行う意志はあるのか。

私は次のような返事を送りました。
XXXX様
 昨年12月、私が書いた「第一回東アジアサミットを巡る『日中抗争』」をご覧になったでしょうか。サブタイトルは「日中新小冷戦のはじまり」です。中国当局としてはもうどうしようもなく、日本の「挑発」とも言える対中姿勢に真っ向から対決せざるを得なくなりました。日中関係がこれ以上悪化することは望んでいないはずだが、今回の上海総領事館事件のような問題を日本が次々に出してくれば、さらに悪化することも避けられないでしょう。
 ただし、日本重視と日中友好追求の姿勢が変わることはありません。この点は、人民日報12月29日付け「望海楼」にはん勇明(復旦大學日本研究中心主任)氏が寄せた「中日関係は硬い氷の下でも希望が宿る」によく反映されています。それには次のようなことが書かれています。
(1)「中日関係は国際情勢全体から離れて単独に発展することはない。」それは「東アジアサミット会議で多くの国が中日関係についての懸念を再三示したことに現れている」。
(2)「日本のリーダー群の中には賢明人士が少なくなく、中日友好関係を主張する力は少数ではない。」「とりわけ中国脅威論を鼓吹する閣僚を公然と批判する人の中には、自民党の重鎮がおり、小泉と共に天下を取った密友もいることは注目に値する。」
(3)例えタカ派政治家が後継者となっても、「外交面で右派とやり取りするのは初めてではない」。「中日友好条約は7-8年もかかって、最後に、タカ派と呼ばれた福田赳夫氏によって締結された。」
(4)「中国に近親感を抱く比率は32%と1978年以来の最低点となり、過去の71.2%に比べて半分以下となった。」「政冷経熱」は「政冷経涼」となりつつある。しかし「物事は一直線には進まず、紆余曲折を経るものだ」。両国間の「人的往来は大きな発展を見ており」、「貿易額は過去最高の2000億ドルに達する」点を見逃せない。
(5)「中国の中日関係発展の方針は変わりない。」「現在こそは一大決心をして」中日両国に横たわる「当面の困難を打開する時だ」。

当面、日中関係の改善は望めず、当局は「争取好的、準備壊的」(短期好転に努力するが、長期悪化の心構えもする)という姿勢に変えたと思われます。今までは何とかして悪化する日中関係を食い止めようと努力しました。しかしそれは非現実的な願望でした。日中関係は構造的要因によって、悪化こそすれ好転は望めないということを悟るようになったのです。これから中国側から積極的提案をすることはあまりなく、専ら中米関係、中欧関係、中ロ関係、中印関係、中ASEAN関係の強化に力を入れるでしょう。日中関係は国交正常化前のような状況に戻ることを覚悟しているでしょうし、じっと日本の変化を待つでしょう。2年、3年、5年、10年、或いはもっと長くまで。日中関係が悪化しても、中国にとってそう困ることはないと見ているでしょう。
1 林治波氏は人民日報の評論員ですが、彼が他雑誌で発表する文章が当局を代表しているとは言えません。しかし林さんの視点は「準備壊的」の方を代表しており、当局の対日観を反映していないとは言えないでしょう。とりわけ林視点は対日強硬派が勢力を増している中国国内の雰囲気をよく表しています。はん勇明氏の方が林氏よりも当局の意向を代表していると思いますが、それはあくまでも「争取好的」という視点からです。しかし、上述の内容からも分かるとおり、はん氏も長期にわたって摩擦が続く可能性も想定しており、林さんと大きく違うことはありません。ただ、日中双方が努力して妥協点を見つけるべきだという願望と熱意が出ているし、より楽観的と言えるでしょう。
2 時殷弘さんはまた謬論を吐いています。中国が日本を国際的に孤立化させるなどあり得ないし、またなし得るものでもありません。彼はかつて日本と手を結んで米国に対抗せよと言いましたが、日本の事情が全然分かっていない論でした。今度は180度転換して、米国と共に日本に圧力を加えよと言いたいのでしょう。彼はパワーポリティックス論者で、中国の平和台頭論も新安全観も和諧世界論も、全然、考えていません。ですから、中国当局を代表しているとは言えず、全く彼個人の見解です。但し、「日本」を「右翼政治勢力」と書き換えれば、大体、的を射ています。靖国神社参拝問題や歴史認識問題では、中国当局は日本右翼勢力と徹底抗争を展開し、その国際的孤立化を図るでしょう。もしハト派が政権を取るようになれば、日中関係は急展開でよくなるでしょう。加藤紘一氏が靖国問題が解決すれば、日中関係問題の70%は解決すると言ったのは正解だと思います。
3 王逸舟さんの論点はかなり当局を代表しているように思います。彼はグローバリストで、時さんとはかなりスタンスが違っていますし、林さんとはさらに大きな相違がありました。日本と中国の提携をずっと熱く主張してきた人です。その彼が林氏と殆ど同じような視点を持つようになったということは、日本への失望が如何に大きかったかを物語っています。(もっとも本人と直接話し合ってみないと分かりませんが。)同時に、これは最近、中国で対日政策について重要な会議が開かれ、政策面での調整が行われたことを示しているのではないかと思われます。中国の平和外交論について、米国を含むすべての国と話し合うことができるのに、どうして日本とだけは通用しないのかという問題に辿りついたと思われます。つまり日本は異質な国、偏狭なナショナリズムの国、21世紀世界に対応できない国と結論付けられたのではないかと想像されます。
4 中国人民の対日感情を緩和するために、中国当局は「日中関係の重要性」を人々に認識させる努力は引き続きなされるでしょう。それの対マスコミ政策、つまり「反日的行動抑制策」としての規制も変わらないでしょう。これと日本の右翼政治勢力との説得闘争とは矛盾しません。逆に、この闘争をしなかったことが今日の悪結果を招いたと反省しているのではないでしょうか。今後、一方で草の根レベルの交流(民間と政府間の両方)を強化し、他方で右翼勢力との説得闘争を強化するでしょう。これによって日本の世論をアブノーマル状態からノーマル状態に転換させ、真の日中友好関係を再構築しようというのが中国の新対日政策のように思われます。
5 上海総領事事件は、本来、外交問題とすべきものではなかったと思います。公表もできないような事情で自殺する人間を外交官にしたことは、それ自体が国家的恥です。日本の世論が日本の八方塞がり外交、とりわけ対中国外交を批判し始めたために、一部右翼政治家が世論の目を中国に向けさせようとしてマスコミに流したと中国の国際問題研究家は分析しているが、真相に近いと思われます。これによって日中関係がさらに冷たくなるのは、完全に日本側の原因によるもので、中国側としてはどうしようもないのではないでしょうか。胡錦濤政権は対日関係を重視しているといっても、対中関係を重視しない小泉政権と真面目に付き合う必要はもうなくなったと見ていると思います。多分、胡錦濤政権は何回も裏切られましたから、当面、進んで関係改善を意志はないと思います。

私は今でも中長期的には楽観論者です。王逸舟さんの「10数年、それ以上の時間がかかる」という見方は、余りにも悲観的です。日中新小冷戦は3年乃至5年、長くて10年と見ています。世論と言った場合、一般世論と有識者世論の両方を見る必要があります。有識者の世論は確実によい方向に向かっており、それはやがて一般世論に反映されます。小泉首相の「一点突破」は国内政治で成功したが、対外関係での靖国参拝突破は必ず失敗するでしょう。日本の国民がそれに気付くのは、そんなに遠くないことだと思います。
2006年1月10日

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このページは、凌星光が2006年1月10日 20:27に書いたブログ記事です。

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