ここ数年、自衛隊のイラク派遣、憲法第九条の改正、米日両軍の一体化、領土問題での韓国、中国、ロシアとの関係悪化など日本の平和的イメージを損なう動きが目立っている。日本のソフトパワーが低下しないか懸念される。
ソフトパワーとは、経済力や軍事力などハードパワーに対する言葉で、外交力や文化力を指す。米国のジョセフ・ナイ教授が提起し、世界的に知られることとなった。
現在、日本のソフトパワーは世界先進国の中で最も高いレベルにある。米国の世論調査機関が数カ国で調査したところ、好感度が中国は米国よりもよく、日本は中国よりもよいという結果が出たとのことだ。
米国への好感度が低位にあるのは、イラク侵攻など単独行動主義への批判が根底にある。中国は専制主義的で馴染めないということであろう。日本がなぜ高いかといえば、平和憲法を盾に、米国の軍事協力要請を断り、戦後60年以上も戦争をしたことがないこと、また巨額の政府開発援助を発展途上国に提供し、その経済社会の発展に貢献したことなどが考えられる。
ところが、最近、首相が、毎年、A級戦犯が祭られている靖国神社に参拝することが問題となり、日中、日韓首脳会談ができない状態が続いている。ジョセフ・ナイ教授が首相の靖国参拝が「日本のソフトパワーを損なっている」と指摘したが、全く同感である。冒頭に述べた懸念はまだ現実のものとなっていないが、そのうちに日本のソフトパワーを大幅に低下させる可能性がある。
中国は中華人民共和国が成立してから20年間、朝鮮戦争、ベトナム戦争(実質的参加)、旧ソ連やインドとの国境紛争など戦争が絶えなかった。それが1978年に改革開放政策が決定されて大きく変わり、1980、90年代には一度も戦争がなく、平和環境の下で経済発展に邁進してきた。
今世紀に入って、中国の存在感が急速に高まり、その影響力も増大している。それと共に「中国脅威論」が勢いを増してきて、今、中国は「平和発展論」や「和諧世界論」(調和の取れた世界の実現)を展開している。そして、米欧先進国、発展途上国すべての国との関係改善・発展に努め、大きな成果をあげている。唯一成果が上がっていないのは、日本との関係である。
米国の対中姿勢は「言っていることはよい、本当に実行するかどうか見極めよう」というもので「関与と牽制」の両面政策をとる。ところが日本の主要な論調は「中国の平和論は戦術に過ぎない、強大になったら侵略する」というものだ。
こちらが相手を信じなければ、相手もこちらを信じなくなる。一時期、私は中国で戦後日本のソフトパワーに学べと言ってきた。残念なことに、今はそれが言えなくなってしまった。まだ挽回の余地はある。日本が築いてきたソフトパワーを大切にし、大平正芳前首相の築いた1980年代の外交哲学に戻ってもらいたいものである。

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