北朝鮮ミサイル発射の日中関係への影響

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一 北朝鮮ミサイル発射を巡る日中間の角逐 
先ず、北朝鮮が事前通告をせず、出し抜き発射をしたことについてかなりのショックを受けたようだ。そして日本が素早く対応し、安保理による「制裁」決議案を日米共同で提案、しかも英仏の支持を得ることとなり、中国は受身に立たされることとなった。日米提案は、制裁決議案を10日に裁決することになっており、時間的余裕もなく、重大なピンチに立たされた。中国として絶対に避けなくてはならないのは、制裁決議を採択することによって、事態が一層悪化し制御不可能になることであった。そこで先ずとった措置は、武大偉氏を朝鮮に派遣し説得を試みるゆえ、決議採択を引き伸ばすよう提案することであった。

ここにおいて中国は米国と日本の相違点に注目し、「米で以って日本を封じる」策をとった。米国は中東問題への対応で精一杯、北朝鮮問題で強く出る余裕はなく、胡錦濤・ブッシュのホットラインで外交的解決を確認し合った。そこで日本を孤立化させ、日本の制裁案を封じる外交を展開した。日本は期限延長拒否を声高に謳っていたが、米国が中国の引き伸ばし案を受け入れ、結局、それに同調せざるを得なくなった。ここにおいて、時間的制約を解くことに成功した。日本の目指す四か国一致、G8主催国のロシアが棄権、中国が孤立し拒否権行使不可能のシナリオを一気に進めようという思惑は外れたのである。
北朝鮮への六カ国協議復帰の説得は成功せず、当初、議長声明で締めくくろうとした戦術を転換し、制裁内容無しの非難決議をロシアと共に提案する策をとった。同時に、もし日米が制裁決議案を強行する場合には、拒否権を行使せざるを得ないと表明し、日本の制裁案を完全に封じた。中国の非難決議への譲歩と制裁決議への強硬な姿勢という巧みな外交に対して、まず仏英が調停に乗り出し、米国もそれに乗った。、安倍官房長官の「制裁内容のない決議は無意味」という主張は覆されたのである。
以上のプロセスを見ると、残念なことに、日本の常任理事国入り、昨年12月の東アジアサミット会議に続く第三の日中間の角逐であったと見ることが出来る。この間、中国のマスメディアは専ら日本の過剰反応と制裁決議案に注目が集まり、額賀防衛庁長官、麻生外務大臣、安倍官房長官の「先制攻撃論」はそれに油を注いだ。しかし中国当局は至って冷静に対応し、中国のマスメディアも韓国の論調を紹介するという形で日本批判が展開された。日本ではアクティブな安倍外交の成果が喧伝されているが、私が思うに、今回も日本の外交は、幾つかの点で見通しを誤ったと見ている。
一つは中国の拒否権行使を振りかざしての日本決議案封じ込め政策である。これは常任理事国入り問題での中国孤立化政策が失敗したのとよく似ている。次に米国への見通しも誤った。ボルトン米国国連大使に頼りすぎ、ブッシュ・ライスラインの米国主流意見を見抜けなかった。それから、ロシアへの見通しも誤った。ここで指摘したいことは、中国とロシアが主導した上海協力機構で、先日、米国の単独行動主義に反対する旗を公然と掲げたことの意義をよく認識することである。中ロの国際政治での連携プレイは、今までになく強化されると見た方がよいであろう。
こうしてみると、日本外交は今回も常任理事国入り問題と同じような失敗を繰り返したということになる。これは私の見方だが、中国研究者の大方の見方でもあった。しかし、これとは全く違った見方も聞かされた。それは、安倍らタカ派外交は、発射される前から周到に計画されたもので、大きなポイントを稼いだというのである。もともと高目標の制裁決議案と低目標の非難決議案を設定しており、打ち出したのは高目標だが、それはかなり難しいことを承知していて、低目標の達成でも大きな成果をあげたことになるというのである。それに対し、もしそうであれば、安倍の時々の発言はもう少し異なったものであったろうと私は思った。
日本に帰ってから、いろいろ聞いてみたが、はじめからそのような周到な戦略戦術があったようではなかった。発射前は発射するかどうかに関心が集まり、発射した後の対応を十分検討した形跡はなく、発射後、僅か半日間で官邸主導で制裁決議案が早々とまとめられたようである。一部のブレーンはそれなりの戦略があったかもしれないが、政府として周到な案が練られた形跡はない。今回の外交活動で確かに日本の存在感を国際社会に示した面があるが、「先制攻撃論」が飛び出すなど、日本の世論をバックとしたその場限りでの言論が目立ち、やはり周到な戦略と戦術に基づいたものではなかったというのが本当のところであろう。
 
二 北朝鮮のシナリオと中国の今後の対応
前にも話したことがあるが、北朝鮮のシナリオは、当面、次の四つが考えられる。
1 国際的協力を得て、中国やベトナムのように改革開放政策への道を歩む。これはすべての国の望むところであるが、それは金正日体制の漸進的変革を意味し、現北朝鮮当局が受け入れるには困難を伴う。中国と韓国の北朝鮮に対する太陽政策は正にこれを目指したものであったが、今回のミサイル発射で挫折を見ることとなった。
2 金正日体制が労働党体制によって代わられる。金正日の指導の下での改革開放政策への転換は難しいというのが、専門家の大方の見方だ。そこで想定されるのは、新しい指導者が出て、現独裁体制を変革し、集団指導体制による漸進的改革が推進されるということだ。これも多くの国の望むところであるが、現状では甚だ難しい。 
3 制裁によって金正日体制を崩壊させる。これは日本のタカ派や米国のタカ派が主張しているもので、それには大きなリスクを伴う。したがって、陸続きの中国と韓国は断固反対する。今回、日米主導の対北朝鮮制裁決議に、中国と韓国が一緒になって強く反対したのは、正にこのような理由による。
4 現状維持による情勢の変化待ち。即ち、北朝鮮は絶えず「金正日劇場」を演出するが、それに惑わされず冷静に対応し、北朝鮮状況の変化を待つという姿勢である。核開発やミサイル開発には、国際的協力によるプレッシャーをかけ、他方で改革開放政策への転換の門を開けておくことである。
中国は現在、結局、第四の道を選ばざるを得ない。今まで二つの五対一、つまり米中日韓露対北朝鮮と中日韓露朝対米のバランスを計りながら、六カ国協議のホスト役を務め、第一へのシナリオを期待したが、今、それが期待できなくなったとしても、基本的にそれが続けられよう。但し、今まで米国への働きかけにウエイトが置かれていたが、今後は朝鮮への働きかけにウェイトがかかろう。対北朝鮮非難決議によって、核開発やミサイル開発関連の取引への取り締まり強化が考えられる。陸運は殆どが中国を通っていると思われるので、やり方次第では、北朝鮮に対してかなりの圧力となろう。北朝鮮の面子を立てながら、じわりじわりとプレッシャーをかけていくのではなかろうか。
北朝鮮としては、米国との対話を模索し、第二のリビアとなる、日本との対話を模索し突破口を切り開くなど、様々の危機脱却策を講じようが、結局、六者会議に戻るほかはなかろう。中国は今まで通り北朝鮮の六カ国協議復帰を促すと同時に、北朝鮮の暴走に対する備えも強化することとなろう。今回威海で、予想もしなかった質問を受けた。ある大学の副校長が、「台湾海峡はそんなに緊張しているのであろうか、胡錦濤は執政以来最大の戦備体制に入った」と言うのである。それは7月10日のことであった。私は「台湾海峡は何ら緊張していない。多分、北朝鮮情勢への備えであろう」と答えた。
北朝鮮は、(1)米国は中東問題で精一杯である、(2)中国は胡錦濤体制確立の過渡期にある、(3)日韓、日中の関係は今までになく悪化している、(4)米韓軍事同盟関係は危機的状態にあるなどを背景として、ミサイル発射を断行した。一見、国際世論をかわし成功したように見えるが、中国、ロシアを含む安保理決議の非難を受けることとなった。瀬戸際政策は正に瀬戸際にある。今こそ、朝鮮半島の当事国である日中韓三国が団結して、北朝鮮の転換を図るべき時である。今回、日中間で展開された角逐は実に悲しむべきことである。

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このページは、凌星光が2006年7月24日 01:08に書いたブログ記事です。

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