8月21日から23日にかけて、北京で中央外事工作会議が開かれた。会議には中央常務委員9名がすべて出席し、各省自治区直轄市主要責任者、中央国家機関主要責任者、軍隊主要責任者、一部海外駐在大使、一部大型国有企業責任者が参加した。24日のマスメディアに会議の主な内容が報道された。それを見ると、胡錦濤色がより一層濃い外交姿勢が示されている。
胡錦濤新外交は、2002年11月に胡錦濤が総書記に就任して二年近く経った2004年8月(25-29日)に開かれた第10回海外駐在大使会議で示された。今回の会議は、その後二年間の経験を踏まえて、より充実したものになったと言える。本稿では中国外交の歴史的流れを省みながら、胡錦濤外交の特色を、とりわけ二年前よりも進展した点に焦点を当てて、論じてみたい。但し、胡錦濤講話の全文や会議で議論された内容の詳細についてはまだ公表されていないため、あくまでも初歩的な分析である。
先ず鄧小平時代、江沢民時代と変わらない国際情勢分析と外交原則としては、時代的特徴は「平和と発展が当今の時代の主要課題である」「世界の多極化と経済のグローバル化が進んでいる」「平和共存五原則の堅持」「独立自主の平和外交政策の堅持」などがある。
次に2004年の海外駐在大使会議で示された胡錦濤外交の特色とは何であろうか。それは
「平和、発展、協力の旗幟を高く掲げる」「平和発展の道を歩む」というもので、国際協力と平和的発展を強調している。つまり中国のソフトパワーを強化することによって、「中国脅威論」を取り除き、平和的環境を整備しようというものだ。そして、次のような言葉が新しく提起された。
「世界の多極化、経済のグローバル化趨勢は紆余曲折を経つつ発展している」、「国際情勢の変化を冷静に観察し、科学的に分析する」、「新世紀、新段階」の外交を展開する、「国内、国際の両大局に着眼し」外交政策を練る、「海外のわが国公民と法人に奉仕する」、「『引き入れる』と『出て行く』相結合の対外開放戦略」を展開する、「外交活動の創造性、主導性、積極性(進取性)」を提唱する、「全局性、展望性、戦略性」のある研究を行う。これらの基本点は今回の会議でも受け継がれ、更に内容が充実されている。
第三に、今回と二年前との相違点や新味について述べてみたい。
第一点として挙げるべきは、2004年にはあった次の言葉がなくなったことである。「新安全観を唱え、公正で合理的な国際政治経済秩序の構築を推進する」「国際事務の中で、発展途上国の正義の要求と合理的主張を支持する」。即ち、二年前には、胡錦濤も温家宝も発言の中で「公正で合理的な国際政治経済秩序を構築する」と言っていたが、今回は言わなくなったのである。今年の初め、香港ですでにこのことが話題になっていたが、今回、それが立証された。現在の国際政治経済秩序が発展途上国にとって、公正で合理的なものではないことは事実で、それを否定するものではなかろう。但し、このような言い方は、現在の国際政治経済秩序に挑戦するというようにも受け取れるため、避けるようになったと思われる。現在の中国の姿勢は、既存秩序の欠陥は、国際社会の話し合いの中で徐々に改善していこうというもので、より協調的となっている。
第二点としては当面の国際情勢の見方が1980年代に戻ったことである。今回、国際情勢の新趨勢、新特徴として「大変動、大調整の時期」にあるとし、「平和維持、戦争制約の要素は絶えず増大しており、かなり長期にわたって平和な国際環境、良好な周辺環境を実現することが出来る」とかなり楽観的な分析をしている。二年前には「国際情勢と国際関係にわれわれが高度に重視するに値する新変化、新特徴が現れた」「新趨勢、新特徴、新動向の把握に注意を払え」としていた。当時、米国の単独行動主義がまだ強かったため、米中関係悪化への警戒心があったためであろう。それが今では、米国の単独行動主義は破綻し、米国の対外政策は国際協調主義にシフトしており、とりわけ中国との戦略対話を強化する方向にある。米中関係が1980年代のような相対的安定期を確保できると見るに至ったため、「かなり長期にわたって平和な国際環境を維持できる」となったのであろう。
第三点として「国際的事務に積極的に参加する」姿勢が示された。過去においても、平和維持部隊の派遣などをしてきた。しかし、その規模は小さく、最低限度の義務を果たしたに過ぎない。原因は国力の限界による面があろうが、より重要な原因は米国をはじめとする先進国主導の「国際的事務」への違和感にあろう。しかし、これからは米国をはじめとする先進国との協調を基本とするため、国連で自らが賛成した「国際的事務」には積極的に貢献していくこととなろう。最近、レバノンの平和維持に1000名の要員を派遣することが決まり、国際的に大きな話題をよんでいる。もっとも、中国は自国の主張ははっきり述べ、米国主導のすべてに賛成するわけではない。あくまでも発展途上国も含む国際社会の求めに応じることを原則としていよう。
第四点は経済外交を積極的に展開することが示された。二年前は、外交工作は「終始、国家主権と安全の維持を第一に置く」と政治と安全保障に重点が置かれた。今回は「国家主権、安全、発展の利益を守る」と「発展」が加わり、「外事工作は経済建設を中心とすることを堅持しなくてはならない」と外交の経済への奉仕が強調されている。胡錦濤外交の特徴はイデオロギー論を排し、専ら実務的外交を推進することにあるが、その基礎となるものは経済である。経済外交によって国内経済の発展を促し、経済外交によって平和的環境を整備するという二つの目的が提示されている。
第五点として「国内国際両大局の統一的把握」による「対外関係の主導権確保」が強調されている。前述した如く、二年前すでに「国内、国際の二大局面に着眼し」と提起したが、まだ漠然としていた。今回は「国際国内両情勢の相互関係の中で発展方向を把握する」「国際国内両条件の相互転化の中で発展のチャンスを掴む」「国内国際両資源の優位性補完のなかで発展条件を編み出す」「国内国際両要因の総合的作用の中で発展大局を把握する」「戦略的策謀と全体的計略を強化し」、「自国に有利な工作局面と戦略態勢を積極的に創りだす」など、極めてはっきりした方向付けを行っている。それの目指すところは、「内政と外交の関連性強化」の中で、内政改善による外交展開、外交成果による内政促進を遂げることにあろう。
第六点として、「平和的発展の道を歩む」理由付けが充実された。2002年末、鄭必堅氏が「平和台頭論」を説き、胡錦濤・温家宝の受け入れるところとなった。その後、「台頭」という言葉はよくないということで「平和発展論」に改称された。そして二年前の会議で重要コンセプトとして使用された。但し中国が平和発展する理由付けについてはたいへんお粗末で、説得力に欠けるものであった。それが今回、たいへん完備した理由付けなされた。「平和的発展の道を堅持するのは、中国的特色ある社会主義の本質的要求である」とし、はじめて社会主義国家という本質的理由が第一に挙げられた。筆者は2003年論文でこれを指摘したことがあり、この点を高く評価したい。更に、平和的発展は「わが国の独立自主平和外交政策の在るべき本義である」とした上で、「わが国が一貫して堅持している対外基本方針に合致し、わが国人民の根本的利益に合致し、中華民族の平和を愛する歴史的文化的伝統に合致し、人類進歩の時代的潮流に合致する」と四つの理由が挙げられた。
第七点として「相互利益、ウインウインの開放戦略」が強調されている。これは今までの政策を継承したものであるが、「より広い範囲、より広い分野、より高いレベルで国際経済技術協力と競争に参加する」「自由貿易区の建設を加速化する」としており、開放戦略の高度化が図られる。他方、「サービス貿易の比率を高める」「対外文化優秀作品戦略を展開し、文化商品輸出の拡大を図る」「中華文化を世界に押し広げ、世界がよりよく中国を理解するように努める」などが謳われている。これはあながち、経済ベースに基づく文化外交である。
第八点として「和諧世界の建設推進」が新しく提起された。「和諧世界論」は、2005年9月、胡錦濤国家主席が国連ではじめて示したコンセプトである。「人民日報」8月24日社説の見出しは「平和発展の道を堅持し、和諧世界の建設を推進する」であり、今や、「平和発展論」と「和諧世界論」は胡錦濤外交の二大コンセプトとなっている。では「和諧世界論」の内容はどんなものであろうか。今回、それがはっきり示された。即ち、「恒久平和と共同繁栄の和諧世界」で、政治的には「各国人民の、社会制度と発展ロードを自主的に選択する権利を尊重すること」と「国際関係の民主化」を推進すること、経済的には「経済グローバル化と科学技術進歩の成果を共に享受すること」、文化的には「異なった文明の交流強化を促し、相互理解を深め、相互促進を図ること」、安全保障面では「相互信頼を深め、対話を強化し、協力を強め」「国際紛争の平和的解決を促すこと」である。
第九点として発展途上国も念頭に入れた「人を以って本と為す」外交が示された。二年前、海外大使館領事館は、企業や公民の海外活動における合法的権益の保護、華僑華人及び香港・アモイ・台湾同胞の正当な利益保護に努めなくてはならないということになり、領事館の業務は大きな改善を見た。今回、その精神が発展途上国人民にも拡大され、「国家の実力増大に合わせて、対外援助を適当に増やし、発展途上国の発展加速化と人民生活の改善を支援する」と謳われた。毛沢東時代に主として革命的視点に立って発展途上国への援助がなされた。改革開放後は大幅に減少した。現在、経済発展と人民の生活改善という視点から、発展途上国への援助が増大されようとしているのである。
第十点として狭隘なナショナリズムと自国過大評価への戒めが間接的に提示された。「広範な幹部や大衆が国際情勢を正しく認識し、各国人民に平等友好的に対応するよう導く」としている。昨年4月の「反日デモ」などが念頭に置かれたものであろう。また、わが国は「長期にわたって社会主義初級段階にあり、わが国を富強・民主・文明・和諧の社会主義現代国家に建設するには、長期にわたる努力が必要である」とし、最近、一部国民の中にあるおごりに警告を発している。
第十一点として「全方位外事工作の展開」が示された。今回の外事工作会議は外交部や海外駐在大使館の要員だけでなく、地方及び中央各部門の責任者を網羅している。それは全人民外交を展開するためであり、このような会議は建国後始めてである。発表された報道には「政府外交の主ルート役割を十分に発揮させ、政党、人大、政協、軍隊、地方、民間団体の対外交流活動を強化・改善し、外事活動の全体的合力を形成する」と書かれており、今後の展開が注目される。毛沢東時代に人民外交が強調された。しかし、当時は閉鎖社会に会って、一般大衆とは殆ど縁がなかった。しかし今は多くの中国人が海外に出て行き、また、多くの外国人が中国にやって来る。真の人民外交が展開される時期にある。
最後(第四)に、胡錦濤外交の中国外交史での位置づけを論じてみたい。私見によれば、毛沢東の第一段階、鄧小平・江沢民の第二段階、胡錦濤の第三段階に分けられる。つまり「新世紀新段階」というのは、第三段階に入ったということである。
第一段階は、イデオロギー対立の中で、革命的外交路線が推進された。米国を中心とする西側諸国の創った国際秩序には否定的で、それを外から破壊し、新しい社会主義の国際秩序を作ろうとした。そこには基本的に階級闘争論に基づく敵対意識があり、合従連衡が展開された。
第二段階は、西側諸国の既存国際秩序の先進性を認め、改革開放政策によってそれに参入していく方針に変わった。しかし、発展途上国に不利な既存の国際秩序には不公正で不合理な面があり、内部から平和的に改革していかなくてはならないとする。但し、中国の力量に限界があり、基本的に「無為」の姿勢をとった。
第三段階は、中国の国力の増強と国際情勢の変化により、国際社会でより積極的な対応をせざるを得なくなった。そして自己抑制としての「平和発展論」と国際社会への貢献としての「世界和諧論」を提起した。これは先進国と発展途上国とを繋ぐ役割を果たすコンセプトである。
最近の米中関係を見ると、米国は明らかに中国の変化に対応している。日本も中国外交の戦略的変化を正しく認識し、日中提携の対中戦略を策定すべきだ。
2006年9月24日

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