「物権法」採択の政治的意義

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今回の全人代で、13年間議論されてきた物権法が高得票率で採択された。これは財産権を法によって保障するもので、人治から法治に移行しつつある中国において、民主政治改革推進の土台を築くものであり、極めて重要な意義がある。

 実質的に「共産党一党独裁」の専制的社会主義のもとでは、個人財産権は「無き」に等しく、一旦、「政治的錯誤」を犯すと、政治的圧迫を受けるだけでなく、自らの生計の道も絶たれる。そのため人々は沈黙を保たざるを得ず、民主と自由は極めて制約されたものとなる。
 改革開放後、市場経済化が進み、個人の財産が形成されるようになった。但し、個人財産権の保障が確立されていないため、また政治改革が後れているため、党政府官僚による市民、農民の権益侵害が頻繁に起こっている。物権法の制定により、今後、このような弊害は緩和・抑制されていこう。と同時に、政治的問題によって生計の道を絶たれるようなことがなくなるため、人々は自由にものを言いやすくなる。
中国政府は、高所得者から多額の税金をとり、他方、低所得者の収入を増やすという方法を通じて、中間層を育成していく方針を打ち出した。物権法は、中間層の財産権を保障するものであり、それを基盤とした市民社会民主政治の確立に向けて貢献していくであろう。政治改革の後れが言われて久しいが、物権法採択はそれに取り組む環境整備に役立つのである。

今回の全人代は、今年秋に開かれる第17回党大会(科学的発展論と和諧社会構築論が主題)の環境整備と位置づけられ、民生問題が大きく取り上げられた。それは先ず大衆の支持を得ることによって、来年以降の政治改革を推進するための諸条件を整備しようとする意図が読み取れる。
胡耀邦によって推進された政治改革は天安門事件によって挫折したが、最近、それを復活させるような徴候が数多くみられる。注目すべき点としては、次のような点が挙げられる。
1 胡錦濤国家主席は、最近、「民主なくして近代化なし」の論断を下した。それを受けて、胡錦濤のブレーンの一人とされる兪可平・党中央編訳局副局長が「民主主義はすばらしいものだ」という新書を刊行し、その序文が北京の主要メディアに転載された。それには「民主は人類史上、最善の政治制度だ」と書かれている。胡錦濤及びブレーンたちの政治改革志向が十分に示されている。
2 温家宝は2月末に署名論文を人民日報に発表し、「科学、民主、法制、自由、人権は、人類が共に追求する価値観だ」と述べた。また全人代後の記者会見で、「社会主義は民主・法制と相容れないものではない。民主、法制、自由、人権、博愛などなどは、資本主義特有のものではなく、全世界が長い歴史の過程で共に形成してきた文明的成果であり、人類が共に追求してきた価値観である」と述べた。(「人民日報」07年3月17日) 
3 鄧小平の民主についての談話が放出されつつある。即ち、鄧小平が引退後に語った談話ファイルが巷に流されているが、それは政治改革推進の世論作りと見て差し支えない。その中に注目すべきものとして次の諸点がある。
(1) 「西側諸国社会制度の優越性は」、「政治的腐敗や経済的腐敗が存在するが、法制度の下でそれが庇護されることはなく、特権を享受することができないことにある。」「法律の前では、誰もが平等という公平性が具現されている。」(91年4月)
(2) 「シンガポールはわれわれが学ぶに値する。西側諸国の法制度の伝統を参考にし、自らの法制度を確立した。」(91年4月)
(3) 「経済発展は社会制度と切り離せないし、経済も政治と切り離せない。本世紀末までの経済水準指標を達成するには、社会制度の発展と改革が不可欠だ。」(92年 8月)
(4) 「三つの山(帝国主義、封建主義、官僚資本主義)排除は不完全で、半分の山(注:封建主義の半分を指す)が存在し、自らが自らを抑圧している。排除しなければならない。」(94年2月)
(5) 「民主と法制度の基礎を築くには、三代(注:約30年?)にわたる時間を必要としよう。国内環境と国際環境がよければ、少し速めることができる。」(91年6月)
(以上は「争鳴」07年3月号9ページより)
4 現在の政治体制では多元化社会の利害関係の調整及び公民の権利増大の必要性に対応できない。第17回党大会の政治報告の中で、政治改革深化の内容を盛ることが検討されており、そのための特別チームが作られているとのことである。(「鏡報」07年3月号8ページ)

胡錦濤・温家宝体制第一期目は過渡期であり、胡錦濤色を十分に出せず、本格的政治改革には取り組めなかった。諸条件が整ったため、第二期目においては胡耀邦路線を発展させた形の政治改革に取り組むと期待される。それによって、専制社会主義から民主社会主義への移行が加速されていこう。(注:資本主義に社会主義要素を取り入れていく過程を社会民主主義と呼び、伝統的社会主義から市場原理と民主主義を取り入れていく過程を民主社会主義と呼ぶ。長期的には、両者は収斂していく。)
2007年3月23日

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このページは、凌星光が2007年3月23日 14:39に書いたブログ記事です。

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