凌星光
中国社会科学院人口・労働経済研究所所長蔡昉氏が5月10日、中国の農村過剰人口時代は終わり、2009年(第11次五カ年計画中)に労働力不足時代に入るという予測を提示した。
彼の分析によると、一般に中国の農村労働力は約三分の一が過剰、その絶対数は1億から1億5000万人と言われているが、実際には、40歳以下の農村余剰労働力は5212万人で、労働力供給構造はすでに、労働力過剰から均衡、更には不足に変化しつつあるという。蔡氏は、2004年から出現した「民工不足」現象は沿海地域から中部地域に拡大し、引いては「労働力輸出省」にまで広がりつつあるという。
日本では1965年頃に、農村の労働力過剰状況が解消し、労働力不足による賃金アップが急速に進んだ。中国においてこのような転換点が何時くるか関心を払っていたが、現在、それに差し掛かりつつあるようだ。とすれば、今後の中国経済について、とりわけ労働力コストについての既成概念を大きく変えて臨む必要がある
先ず、中国農村の過剰労働力を40歳以下の年齢に限ったことは一理ある。というのは、40歳以上は流動性に欠け、農村に沈下する可能性が高く、都市部への雇用圧力とはなりにくい。一人っ子政策の影響もあって、若年労働力が不足気味になることも見逃せない。
次に、中国政府の三農支援策(農業の発展、農民の所得増加、農村の繁栄)及び農村の都市化政策により、農民の地元定住志向が強まる可能性が高い。現に、農民の所得増加につれて、民工としての都市への人口流出現象は減退傾向にあると言われる。
第三に企業から見た場合、賃金コストは上昇に転じていく。ここ数年、中国労働力の賃金は徐々に上昇し、ベトナムなどと比べて、かなり高くなっているという。労働力不足が顕在化していく中、今後、この傾向はますます増大していこう。
第四に、人民元レートの割安状況が改善されていくのは明らかで、ドル換算の労働力コストは更に増幅される。つまり元建て賃金の上昇と元レート上昇の相乗効果によって、中国での賃金コストは大幅に高まっていく。
もちろん、以上のような構造的変化は急速に進むものではなく、短期的には企業活動に大きな影響を及ぼすことはない。しかし、5年10年の中長期的企業戦略を考える場合、中国経済ばかりでなく、周辺諸国及び世界に大きなインパクトを与えるであろう。
ミクロ的には、日本において研修生という形の低賃金労働力をアジア諸国から導入しているが、中国について言えば中長期的には減少していこう。その代わり、真の意味での研修生受け入れやさまざまな人材交流は盛んになっていく。今日本で、研修生受け入れ制度の改革について議論が交わされているが、アジア諸国の経済的変化を念頭に入れて考えるべきだ。
マクロ的に見た場合、良品質低価格の中国製品は世界の物価上昇を抑制してきたが、中国に取って代わる国、地域が出てこなければ、賃金コストアップによる世界的物価上昇が引き起こされる可能性もある。エネルギー、環境問題で中国経済は世界的議論を巻き起こしたが、次は労働力問題で世界的議論を引き起こすかもしれない。
(2007年5月22日)

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