自民党大敗と価値観外交への反応

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                     凌星光
  8月10日に中日関係史学会と交流し、北京、杭州、上海三都市で個人的に意見交換した結果、及び中国の新聞雑誌を見た上で感じたことを報告する。
まず感じたことは、安倍首相と自民党への過度の期待である。参議院選挙での自民党大敗後の日本政局についての専門家会議が開かれたが、大方の意見は自民党続投、安倍首相続投であったとのことだ。そこで、小生が阿部首相の10の判断ミスの責任が問われており、国民支持率の低下、自民党内反主流派からの批判発生(すでに点から線に発展、内閣改造後は面に向かう可能性あり)、民主党の攻勢激化などを紹介し、安倍政権の弱体振りを述べ、安倍首相続投への期待値が余りにも大き過ぎるのは非現実的と強調した。それに対し、中国ではそのような感触が得られないこと、結局は自民党政権が続くのではという意見が語られた。

このように中国において日本の現実政治に疎い原因はどこのあるのだろうか。次の幾つかの要因を挙げてみたい。
 1 安倍自民党内閣への同情心。小泉の頑なな靖国神社参拝に対し、安倍首相は曖昧政策で臨み、日中関係の硬直化局面を打開した。それが高く評価され、研究者にも「小泉憎し、安倍は良し」の風潮が強い。ある著名な研究者が、自民党が大敗したことは「残念だった」という言葉によく表れている。
 2 民主党と小沢代表への不信感。前原氏訪中の中国脅威発言はかなりの悪影響を与え、中国研究者及び政府関係者の不信を買ったようだ。また小沢代表は政権をとるためには手段を選ばない、政権奪取後の対中政策は不安という考えが強い。小沢氏とシーファー大使とのやり取りについても、積極的評価は聞かれなかった。
 3 日本の政治的流れへの浅い認識。安倍首相の基本路線が否定されたわけではないという見方をかなりの程度受け入れているようだった。それに対し、自民党大敗の原因としては、年金記録問題、閣僚の失言・失態、政治と金の問題が直接的きっかけとして挙げられるが、深層原因としては、小泉新自由主義路線の挫折、自民党選挙基盤の瓦解、憲法第9条改正志向への反発、小泉・安倍外交の行き詰まり、日本における東アジアモデルか米国モデルかの論争があると述べた。
 4 日本関係報道の非客観性。安倍首相個人への好印象と続投への好評価は多分に中国マスメディアの報道と関係がある。閣僚の靖国神社不参拝が大きく報道され、安倍政権の困難状況は余り報道されていない。そのため、安倍政権への好評価と安泰論が各地で聞かれた。それは研究者ばかりでなく、一般の役人やインテリにも通じる。
 5 内政優先による対日政策研究の軽視。日本の政治情勢に対する研究がお粗末に感じたので、それを指摘したところ、夏休みで休養をとっていること、上層部は第17回党大会を控えて内政問題で精一杯、対日政策についての検討には手が回らないという返事が返ってきた。日本の政治は今大きな転換点にある可能性があり、中国当局の研究強化を叫びたい。
 6 時期の悪い国防部長の訪日。曹国防部長の今月末訪日は、日中間の安全保障協力の視点から見た場合、極めて重要な意義がある。しかし、防衛省は人事問題でもめていて、防衛大臣の小池女史は極めて評判がよくない。27日の内閣改造で、小池女史続投か新人がなるかもはっきりしない。日本側が十分な対応ができるか懸念される。訪日時間を延ばしたほうがよいと感じる。

二 安倍価値観外交への不信増大
  以上は8月10-15日間の状況であったが、安倍首相のインドネシア、インド、マレーシア参加国訪問のニュースが多くなるにつれて、安倍首相の価値観外交は弱まる方向ではなく、ますます強化される方向性が示されてきた。そこで、中国研究者が安倍への期待が裏切られたということで、逆方向で過度の反応に陥らないかが懸念される。
まず、「戦略的互恵関係」に対する不信感が増大しないか。中国側と日本側の戦略的互恵関係への理解は大きく異なる。中国側は「平和友好の戦略的互恵関係」であるのに対し、安倍政権は「けん制と協力の戦略的互恵関係」である。昨年10月以来、中国側は戦略的互恵関係の具体化を図ろうとしてきたが、結局、それは今もって実っていない。
次に安倍首相の中国けん制の四カ国同盟論に反発しないか。安倍首相はインド訪問中に日印関係強化による対中国けん制が際立ったが、それへの厳しい論評が出だしている。
「安倍政権は外事を以って国内困難の脱却を図る」が「人民日報」8月18日付けで掲載され、日本はアジアの「領袖」気取りでいると批判している。但し、外交によって国内困難を乗り切るために外交で点数を稼ごうとしているとし、日本への本格的批判にはなっていない。今後の展開が注目される。
第三に「主張する外交」への評価見直しが行われるのではないか。「主張する外交」については自主外交の展開かと思われていたが、パール判事の子息訪問など、安倍首相は歴史認識問題での自己主張を表に出して人気を得ようとしている。慰安婦問題と同じく、これは時代に逆行するものであり、中国側がどのような判断をするかが注目される。
  第四に、日中首脳外交への位置づけが変化しないかどうか。日中間の首脳会談が正常化したとして、中国側は安倍首相の訪中と温家宝首相の訪日を高く評価し、今秋の安倍首相訪中と来年の胡錦濤国家主席訪日を最重要行事の一つと位置づけ、その成果に期待している。しかし、安倍首相の現在の対中姿勢では、中国側はとしては対応に戸惑うこと間違いない。首脳会談は行われるであろうが、その位置づけは一ランク、ダウンする可能性がある。

三 中国対日政策の三つの可能性
ここ10年、中国の対日政策には大きなブレがあった。今回、安倍内閣への期待値が余りにも大きかったため、その反動としてまた揺れが起こる可能性がある。当面、中国の日本への対応としては次の三つのシナリオが考えられる。
一つは矛盾する安倍二面外交に対して節度ある批判を加える。節度ある批判とは、政府外交レベルでは自己抑制するが、有識者レベルではかなり自由な批判を展開するということである。前述した如く、このような傾向はすでに見えてきているが、今後、より一層際立ってくる可能性がある。
二つ目は、価値観外交は机上の空論として「無視」し、既定の方針を堅持する。即ち、米国、EU,ロシア、インドなどとの大国間融和外交を展開し、ASEANなど発展途上国との関係も強化し、「正攻法」によって日本の価値観外交を袋小路に追い込む。事実、米国でさえ対中国外交をイデオロギーから現実主義に転換しており、安倍首相の価値観外交が挫折することは明らかであり、中国としてはまともに対応する必要はないとする選択が考えられる。
三つ目の対応は対中国包囲外交に対して対日本包囲外交を展開することが考えられる。一昨年、日本の国連常任理事国入り問題で、中立的姿勢から反対姿勢に転換し、積極的に日本封じ込め政策を展開したが、その二の舞が生ずることである。国際会議で名指しこそ避けるであろうが、実質的に外交闘争が展開される。そうすれば日中関係は再度、冷却化していく。胡錦濤体制は安倍首相の挑発に乗らないで冷静さを保つと思われるが、今回の四カ国同盟論などは余りにも露骨であり、この三番目の選択に走らないという保証はない。
中国として最もよい選択は二つ目であるが、中国の現状からして難しかろう。結局、第一の選択になる可能性が大きい。第三の選択は絶対に避けるべきだし、実際に避けるであろう。
現在、中国にとって重要なことは、戦略的互恵関係について、中国は戦略的位置づけをしようとしているが、安倍首相は戦術的位置づけしか考えていないことを認識することだ。即ち、戦略的互恵関係は日本のアジアにおける優位性を維持するための手段に過ぎず、具体的に言えば、経済や技術面での日本の優位性を活用して、中国側の譲歩を引き出し、日本の軍事政治外交面での優位性を維持しようとするものである。中国が日本のこのような要求を完全に受け入れることは考えられず、所詮、安部政権下で日中間の真の戦略的互恵関係は不可能なのである。中国としては専ら日中間の共通利益を追求し、関係の再悪化を極力避け、日本の政局の変化を待つという余裕ある姿勢が求められる。  
2007年8月24日

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このページは、凌星光が2007年8月24日 16:21に書いたブログ記事です。

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