Focus On Chinaフォーラム:2007年10月26日
中国経済は高度成長を遂げると同時に、多くの問題を抱えている。そのため、中国脅威論、中国崩壊論、日中共生論など、さまざまな見方が出ている。今日は、中国経済の実態を踏まえて、高度成長は何時まで続くか、国際的インパクトはどうなのか、日中協力はどうあるべきかの三つの問題について話したい。
一 中国経済の高度成長はどのくらい続くか。
表1に見る如く、中国の経済的パフォーマンスはたいへんよい。1978年から2006年まで28年間の年平均成長率は9.68%、消費者物価上昇率は5.69%、財政収入伸び率は13.45%、輸出入総額伸び率は19.92%であった。
先ず、中国経済のこのような高度成長はあとどのくらい続くのであろうか。あと10年乃至15年は続く。その理由を述べるに当たって、高度成長とはどのくらいの成長率かを述べたい。7-10%である。中成長は4-6%で、低成長は1-3%である。人類の歴史のなかで、高度成長を遂げることはなかった。ただ、戦後日本やアジアNIESが一定期間実現し、現在中国、ベトナム、インドが追っている。なぜこのような高度成長現象が起こるのであろうか。それは後発性利益に負うところが大きい。発展途上国は労働力が豊富であると同時に、先進国の経験やノウハウを活用することができる。そのため、労働生産性が著しく高まり、8-10%の高度成長を遂げ得るのである。それは発展途上国が先進国にキャッチアップするプロセスの特殊現象と言える。
では中国の高度成長があと10-15年続く理由はどこにあるのであろうか。日本の高度成長は1955年から73年まで18年間続いた。アジアNIESは1960年代後半から約30年続いた。中国やベトナムはそれより長く40年乃至45年続くであろうし、インドは50年間続くであろう。このように高度成長の期間にばらつきがあるのはなぜでしょうか。それは高度成長開始時の先進国とのギャップによって決まる。二桁の成長率は国民経済の不均衡をもたらし持続できないことが経験で立証されている。そこで7-10%の成長率と経済的ギャップによって期間が決まるのである。日本は早く高度成長に入り、欧米先進国との格差が小さかったため18年間で中成長期に入った。アジアNIESは晩く開始し、格差が大きかったためより長く、同じ理由で中国やベトナムは更に長くなる。中国はすでに30年の高度成長が続いたから、あと10年ないし15年経つと中成長期に入ろう。先進国に完全に追いつくと、1-3%の低成長期に入る。
次に、どのような発展途上国が高度成長を実現できるのであろうか。それには次の三つの条件を備える必要がある。一つは効率的な経済メカニズムの形成である。政府主義の計画経済モデルは非効率で、ソ連や中国の実践で立証されたように、持続的高度成長を遂げることはできない。南米やその他の発展途上国で見られるように、市場主義の新自由主義モデルは貧富の格差を拡大し、経済の持続的高度成長を挫折させる。政府の役割と市場原理を合理的に結合させた東アジアモデルが形成されたところでは、持続的高度成長を実現できる。
二つ目は質の高い労働力の有無である。余剰労働力があることは、成長潜在力を顕在化させることによって成長率を高める。労働力には生産と消費の二面性があり、経済発展の基礎をなす。同時に教育レベルが高ければ、技術吸収力があることになり、労働生産性を高め、経済成長率を押し上げる。中国は膨大な過剰労働力を抱えると同時に、教育を重視し、労働力の質を高めたため、この条件を満たすことができた。
三つ目は国際的平和環境、とりわけ先進国との良好な関係である。高度成長を遂げるためには、後発性利益を発揮させる必要があり、先進国からの技術や資本の導入が欠かせない。中国は改革開放政策をとることによって、資本主義先進国への対決姿勢が協調姿勢に転換した。現行の国際政治経済秩序を外部からぶっ壊すのではなく、それの合理性を基本的に認め、不合理なところは内側から改革していくという姿勢に変わった。先進国は中国のこの転換を歓迎し支持した。
この三つの条件は今後も維持され、中国の高度成長持続が保障される。
二 高まる中国経済の国際的影響力
先ず、過去28年間の為替レートとGDPとの関係を三段階に分けて分析したい。
第一段階は1980-1994年間で8%台の高度成長を遂げたが、人民元レートが1ドル1.6元から8.70元に切り下げられたため、ドル建てGDPの伸び率は過小評価されることとなった。年度によっては、元建GDPは8%台の高度成長でも、ドル建て計算ではマイナス成長という現象も出た。そのため、ドル建てGDPの発表を中止したことがある。表2に見る如く、中国の世界に占めるGDPウェイトは、1980年の2.5%から1994年には2%に低下した。即ちこの段階は、成長率が元切り下げで帳消しとなり、国際的影響力は増大しなかった。
第二段階は1994-2005年間で、元為替レートは約8.27元で安定的推移を示した。それ故、この間はと9%台の高度成長に見合った国際的影響力が出た。表2に見る如く、GDPウェイトは2006年に5.4%まで高まった。
第三段階は2006-2020年間で、元レートは上昇していく。現在、元レートは購買力平価の三分の一と見られ、元レートは急上昇する。というのは、人民元の価値が上がってきたため、元レートは購買力平価に接近していくからである。すると今後15年間は、8%台の高度成長と元上昇率の相乗効果がでて、中国経済の国際的影響力は大幅に強まることになる。
次に、中国経済の国際的影響力がどの面で突出したものになるかについて考えてみたい。
第一に世界経済発展の牽引力となることである。現在すでにその役割を果たしている。表3のカッコ内の数字は各国の世界経済発展への寄与率を示すものだが、2006年において、中国は29.4%の寄与率、それに対し米国は10.8%、EUは11.7%であった。因みに日本は僅かに2.6%である。現在、中国の基数がまだ小さいから寄与率は限られているにもかかわらず、米国の3倍であった。今後、徐々に基数が大きくなっていくため、寄与率はますます高まる。即ち、中国経済の世界経済発展の牽引力としての役割はますます大きくなるということである。
第二に人民元の国際通貨化が進む。ある通貨が国際通貨になるには、信用と安定性である。今年9月末の外貨準備高は1兆4000億ドルと世界のトップ、それに人民元レートは上昇基調にあり、人民元への信用はますます高まっていく。ここ10年、物価上昇率は約1%、通貨価値は極めて安定している。しかも経済規模が大きく、国境を持つ対象国は10数カ国に上り、流通に有利な環境にある。ただ、金融の規制がかなりあり、通貨の自由なやり取りは制約を受けているという問題はある。そう遠くない将来において、人民元が国際通貨となることは間違いない。
第三に、発展途上国への影響力を増し、先進国と発展途上国の橋渡し的役割を果たすようになる。日本は後発先進国として、橋渡しの役割を果たそうとしたが、結局、先進国の立場から脱することはできなかった。中国は最近、企業の対外進出を奨励し、助成策を取っている。「最大の発展途上国」として、その利益代表の任に当たろうとしている。また、先進国に対しては、かつての対立的姿勢から協調姿勢に変わった。単独行動主義に躓いた米国も中国の協力を必要とするようになる。中国の国際政治での役割はますます高まっていく。
ここで、中国経済発展の制約要因をどう見るかについて、一言、触れてみたい。
先ず、エネルギー、環境問題であるが、確かにこれ以上の「暴走」はできなくなっている。それは日本の1960年代をはるかに上回る勢いで、中国経済を圧迫している。しかし、中国当局はそれを深刻に受け止め、多くの対策を打ち出している。環境にやさしい経済発展が合言葉になりつつある。
次に貧富の格差拡大、その結果、農村や弱者の購買力が低く、国民経済全体の有効需要を低迷させているという問題がある。これは過去五年間、さまざまな対策が採られ、解消に向かいつつある。新自由主義の影響を受けた、市場万能論から、弱者支援の政策調整が着々と行われている。
第三に中国経済の発展は外資依存型で独自技術の開発が遅れていて、持続性に欠けるという問題がある。中国は計画経済期においては、自主開発が主であった。改革開放後、先進国の技術導入に力を入れ、自主開発への努力を軽視するようになったことは事実だ。しかし、それは計画経済から市場原理導入の過渡期において生じた一時的現象である。市場原理と政府の役割を結合させるという方式での技術開発奨励策が編み出されつつある。
第四の問題は、よく言われる共産党一党独裁の政治社会と市場原理が取り入られる経済社会との不整合性である。これも極めて重要な問題で、政治体制改革による民主化は切実な問題となっている。胡錦濤体制は、党に指導性確保、人民民主、法治三結合の政治改革を実行しつつある。日本や米国のような民主主義政治ではないが、中国式民主政治が形成していく可能性は十分にある。
今月開かれた第17回党大会は、以上の問題に取り組む基本方針が示された。それが果たして実行できるかどうか、冷静に見守っていく必要がある。ここで是非とも指摘しておきたいことは、中国高度成長の30年は、危機的状況の連続であった。あるときは外貨危機、あるときは食糧危機、あるときはインフレ危機、あるときは政治危機などである。現在は環境危機とでも言えようか。中国当局はそれを一つ一つ克服し、振り返ってみる、30年間の高度成長が続いたということである。
三 新段階に入る日中協力
このような発展を遂げる中国、国際的影響力を増大させる中国に日本はどう対応したらよいか、日本企業はどう対応したらよいか、チャンスと見るか脅威と見るかである。前者に立てば、中国の経済成長を日本の発展戦略の中に巻き込んでいくことになる。後者に立てば、中国をけん制し、その発展を阻害させようということになる。中国が現在の平和発展、和諧世界の政策が取られる以上、後者の選択は自殺行為である。チャンスとみて取り込みを図ることが正しい選択である。
日本としては以下三つの面で戦略的視点を持つべきだと考える。
一つは対外経済関係での戦略的日中協力関係を築くことである。この点では、約30年前に故大平首相が提起した対中戦略構想を思い起こす必要がある。日本が中国にODAを提供するのは、中国が国際国家として責任ある役割を果たすようにするためだと述べた。実に立派な考え方で、当時、鄧小平をはじめ、中国の指導者及び有識者から高い評価を受けた。昨年10月、安倍首相の訪中によって、戦略的互恵関係の構築が謳われた。それは過去30年の平和友好関係を継承発展させたものと位置づけるべきである。即ち、日中両国は「平和友好の戦略的互恵関係」を構築するという共通認識を持つべきである。それを踏まえて、日中両国は次の四方面で戦略的協力を推進すべきだ。
第一にエネルギー・環境面での協力である。これは技術ばかりでなく、制度面での協力も含まれる。日本の経験とその制度的優位性が、中国で活かされるのでる。日本の得意とする省エネと環境対策の技術及び制度的枠組みは、中国を日本側に巻き込む絶好のチャンスにある。
第二は科学技術面での協力で、環境技術、宇宙開発、電子光学、鉄道技術などで大々的に進めるべきである。企業によっては技術の流出を恐れて、消極的姿勢を見せるところもあるが、短期的利益と中長期的利益を考えて積極的に対応することが肝要だ。技術提供のチャンスをと中国市場を逃してしまう可能性がある。
第三に対外直接投資面での協調が図られるべきだ。表1に見る如く、中国の対外投資は急拡大しようとしている。戦後日本が東アジア諸国で行った直接投資は、その地の経済発展に貢献した。その経験を中国は学ぶ必要がある。中国企業のアフリカへの進出が目覚しいが、日中は競合よりも協調的であるべきだ。
第四に日中協力によって技術と制度の両面でエイシアンスタンダードを確立することが望まれる。電子通信技術やその他の分野で、日本は世界最高水準にあったが、米欧が先に中国進出したため、技術基準は欧米によって決まることになった。国際会計基準などでも然りである。日中が提携すれば、世界の先を行くことができる。
二つ目としては東アジア共同体の構築に向けて協力することである。日本の価値観外交やASEAN10+3+3提起によって、中国の東アジア共同体構築への熱意は急速に冷めつつある。これは日本にとって大きなマイナスである。日本の優位性が保たれている間に、中国の関心をもう一度呼び起こす必要がある。具体的には次の四点で協力することである。
第一点は東アジア安全保障体制の構築である。朝鮮半島をめぐる六者協議は進展を見せているが、これを成功させてレベルアップを図り、北東アジア安全保障体制を構築する。それを踏まえて更に東アジア安全保障体制を構築するのである。金正日に対する厳しい見方が強くあるが、10年乃至20年のスパンで見れば、間違いなく実現可能だ。
第二点はアジア通貨を創出することである。日本はもっと早くから円と人民元の協調体制を作るべきであった。尤も人民元の力はまだ余り強くないため、日本が影響力を及ぼす余地がまだある。もしあと10年今のような状態が続いた場合、円の存在感は更に低下してしまうのではないかと気がかりだ。
第三点は域内貿易・投資の円滑化を図ることだ。日中間で自由貿易協定を結ぶと、日本に大きなメリットをもたらすという研究結果が出た。しかし政治的思惑から、日本はそれに応じようとしない。中国はFTAを推進し、日本はEPAを推進するという競合状態が続いている。こういった状態は早く打ち切るべきである。
第四点は人的交流の円滑化を図ることである。高級レベル専門家の交流ばかりでなく、技術者、技能者、単純労働者レベルでも人的交流が行われる仕組みを作るべきだ。日本の研修生受け入れ制度は改善の余地はたくさんあるが、この制度自体は日本社会の安定を保ちつつ、発展途上国の経済発展に貢献できる、極めてよい制度的仕組みである。東アジア全体に広く推進すべきである。
三つ目としてはユーラシア大陸の開発という視点から協力を強化すべきだ。人類の四大文明はユーラシア大陸から起こった。航海技術の発展によって海洋国家・地域に有利な時代が続いたが、科学技術の更なる発展によって、21世紀後半においては、沿海と内陸部の両方が共に発展する時代が来ると思われる。
先ず中国内陸部の開発が進んでおり、ユーラシア大陸中心部開発の起爆剤になる可能性がある。今世紀後半から来世紀にかけてユーラシア大陸を開発するという視点に立って、日中両国が協力して中国内陸部を開発すべきである。日本は中央アジアへの協力を、中国との競合という姿勢ではなく、共同で推進するという姿勢が必要だ。
次に日中が協力して国際的インフラの整備に取り組むべきだ。国境を越えた高速道路網が、ユーラシア大陸で企画され建設されている。更に重要なのは、環境にやさしい高速鉄道網の建設である。日本は世界トップレベルの鉄道技術を持っているが、日本の国土範囲内では発展の余地はない。その技術をユーラシア大陸で生かすとなれば、活躍舞台は飛躍的に拡大する。朝鮮海峡が海底トンネルで結ばれれば、日本のユーラシア大陸進出は更に効果的なものとなる。
第三に先に述べた日中間のエネルギー・環境問題での協力を更にユーラシア大陸全体の協力へと広めるべきだ。ロシアや中央アジアのエネルギー資源の開発や備蓄などの面で、省エネ・環境保護の視点から国際協力を推進し、砂漠や荒野が大きなウエイトを占めるユーラシア大陸の改造に取り組むのである。
第四に日本が上海協力機構に参加し、それの経済的効果を飛躍的に高めることが望まれる。この組織の前身はもともと国境画定問題を解決するところから出発した。それが共同でテロ対策を取ることとなり、更に経済協力へと進んだのである。今後、上海協力機構はますます経済協力に傾斜していく趨勢にあり、日本参加のチャンスはますます多くなる。先ずオブザーバーになり、更に正式メンバーとなるシナリオが考えられる。
2007年10月4日

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