2003年、胡錦濤・温家宝新体制が発足すると同時に、東北地区等旧工業基地の振興が打ち出され、人々の注目を浴びた。その後、「国務院東北地区等旧工業基地振興指導グループ」(以下、指導グループと略称)が設立され、温家宝総理自らがグループ長となった。それ以来、東北旧工業基地を「新興産業基地、新重要成長地域に建設する」という目標を目指して東北振興の策が検討された。そして、約三年の模索を経て、今年8月、「東北地区振興計画」(以下、振興計画と略称)が打ち出された。この計画の概略とそこに示された交通インフラ整備計画を紹介し、その北東アジア経済に与える影響を考えてみたい。
一 東北振興計画の概要
振興計画の作成作業は2005年5月に開始され、二年間の調査研究を重ねて、今年6月12日、最終的振興計画(案)が第4回指導グループ会議に回され審議された。2007年8月2日に国務院の原則的同意を得て、8月20日、正式にマスメディアに公表された。振興計画のカバーする地域は遼寧省、吉林省、黒竜江省及び内蒙古の東部地区で、面積は145万平方キロ、総人口1億2000万人である。
振興計画では2020年までに「総合的発展水準が比較的高い重要な経済成長地域にすること」及び「四基地一区」を建設するという目標が確立された。また中央がこの計画を批准するに当たって、「諸政策措置を整備し、政策的支援と財政的支援を強化し、東北旧工業基地振興に良好な政策環境を整える」と明示し、中央からの支援を約束した。
振興計画案では、東北振興の総目標が「10-15年内に東北地域を総合的経済発展水準で全国の前列に立つ重要な経済成長地域にする」「経済総量の全国に占める比率が低下から上昇に転じ、わが国経済の新しい成長軸となる」「一人当たりGNPが東部地区の平均レベルに達する」となっていた。それに対し、国務院は審査の過程で「全国の前列に立つ」を「比較的高い」に改め、「一人あたりGNPが東部地区レベルに達する」にも、これは難しいと見て省いた。但し、「四基地一区」建設目標は原案通り国務院の同意を得た。
「四基地一区」とは、次のような内容である。
1 国際競争力のある装置産業基地を建設する。
2 国家の新型原材料・エネルギー保障基地を建設する。
3 国家の重要な商品食糧・農牧業生産基地を建設する。
4 国家の重要な技術開発研究・創新(イノベーション)基地を建設する。
5 国家の重要な生態安全保障区を建設する。
計画そのものは九部分、即ち、(1)情勢分析、(2)指導思想と振興目標、(3)工業構造の最適化と高度化、(4)現代農業の発展、(5)サービス業の積極的な発展、(6)地域と都市・農村の協調的発展、(7)保障支持能力の向上、(8)発展活力の強化、(9)政策措置と実施メカニズム、からなっている。
また計画の核心的内容は「一つの主線、六つの加速化」であると説明されている。
主線とは旧工業基地の振興である。
六つの加速化とは次のような内容である。
(1)改革開放の段取りの加速化。発展活力を強化するには更なる改革開放が不可欠とし、1)体制改革とメカニズム創新を突破口として、発展の内在的動力を強化する、2)対外開放拡大を通じて、発展の推進力を強化する、3)自主創新に力点を置き、発展の核心的競争力を強める、4)重点突破、協調推進によって、東北地域発展の活力を全面的に高める、を提起した。東北地域は改革開放が遅れていたが、それを挽回しようということである。
(2)経済構造の調整と高度化の加速化。工業面では「先進的装置産業基地の建設、ハイテク産業の発展加速化、エネルギー産業の発展最適化、基礎原材料産業の高度化、特色ある軽工業の発展加速化」が提起されている。また農業面では、「現代産業システムで農業の発展を図る思考方式」を強調し、「現代科学技術を応用して農業を改造する」とし、「農業生産基地強化と農業の発展基礎強化」を二大任務としている。東北地域の二大経済基盤である重工業と農業の現代科学による建て直し宣言である。
(3)地域協力プロセスの加速化。地域間及び都市・農村の協調的発展を図る戦略として、「ハルピン―大連線と沿海線の二線を一級軸ライン」と位置づけ、「その優位性を発揮して、一群の二級軸ライン形成を促し、『三縦五横』の交通インフラを中心とした空間発展局面を形成していく」としている。省間のセクト主義を排除し、東北地域全体の協調的発展を遂げる戦略を提起したのである。
(4)資源枯渇型都市経済の転換加速化。「資源開発補償制度と衰退産業支援制度を確立し、代替産業を積極的に発展させる」「実験的モデルケースの建設を通して、資源型都市の持続的発展を図る道を積極的に模索する」などが謳われている。撫順など石炭工業都市は資源の枯渇によって大きな困難に直面しているが、財政的支援を増やして代替産業を育成し、持続的発展のできる都市に再生させるというのである。
(5)資源節約型・環境友好(優しい)型社会の建設加速化。「生態建設と環境保護、資源の合理的利用などについて重点的に策を練り、一連の措置を提起した」としている。東北地域の重工業は日本時代の技術と旧ソ連の技術を土台としており、資源浪費型工業であった。そのため環境破壊は甚だしく、大きな問題となっている。それを抜本的に変えていこうというのである。
(6)教育・衛生・文化・体育など諸社会事業発展の加速化。「市場化、産業化、社会化の方向堅持」が強調され、「中心都市に依拠して、現代サービスシステムを構築する」としている。また「現代物流、金融、ビジネスサービス、文化的創意性など生産的サービス業と商業サービス、観光など社会的サービス業」の両方を発展させるとしている。大型国有企業が多かった東北地域は、市場経済の土壌に乏しく、改革開放の中で後れを取っていたが、それを短期間で変えていこうというのである。
二 東北交通インフラの整備
振興計画実現のカギとなるのは交通インフラの整備である。振興計画の中では、「東北の地域を跨った交通インフラ建設を加速化し、鉄道ネットワーク、道路ネットワーク、港湾システム、空港システム、対外交通路の整備などを強化し、石炭、石油、鉱石、食糧など七大総合輸送システムを形成していく」と謳われている。
具体的には次のようなプロジェクトが推進されるとしている。
1 空港建設。大連、瀋陽、長春、ハルピンなど省都空港を拡大整備し、長白山、吉西北、漠河、大慶、鶏西、伊春、アアル山、二連浩特に新空港を建設する。
2 鉄道建設。ハルピン―大連間の旅客専用高速鉄道線、長春―吉林間都市軌道鉄道、伊敏―伊尓施間、赤峰―大板―白音華間、烏蘭浩特―霍林河―錫林浩特間、阜新―西烏珠穆沁旗間鉄道及び東北地域東部鉄道を建設する。
3 高速道路建設。綏芬河―満州里間、鶴崗―大連間、琿春―烏蘭浩特間、大慶―広州間高速道路の大慶―通遼―赤峰―承徳間、長春―深圳間高速道路の長春―双遼―阜新―朝陽―承徳間、丹東―錫林浩特間、通遼―瀋陽間、吉林―瀋陽間、吉林―黒河間の高速道路建設によって国家レベル高速道路網を構築する。
4 港湾建設。大連港の大窑湾コンテナ第三期、第四期バースの建設、旧港区の改造、東港区の改造を進める。営口港、丹東港、錦州港の拡張整備などを行う。なお、東北地方の対外開放を促すために、「大連を北東アジア諸国国際水運センターにする建設目標を加速化する」としている。
中国交通部は、今後10数年にわたる東北地区交通インフラ整備の一環として、道路水路交通を大いに発展させる計画を打ち出した。それは「東北旧工業基地振興の道路水路交通発展計画綱要」と呼ばれ、2020年までの東北三省の道路水路の発展方向、目標、重点、措置などを定めた。それによると、2020年には、東北地区道路貨物輸送量は現在の2.3倍の1100億トンキロ、水路貨物輸送量は3.3倍の3810億トンキロになるとしている。
この計画の実施によって、東北地域の道路水路交通インフラは次のような目標が達せられる。1)道路の総延長は24万キロ、2)高速道路の総延長は9000キロ、3)沿海地区に形成される現代化された港湾群、4)港の貨物総扱い量は7.5億トン、5)コンテナ扱い能力は2700万TEU、6)三級以上河川の航行延長は2830キロ。
このような交通インフラを整備するには巨額な資金を必要とするが、交通部は国債の発行及び車購入税、道路維持費、貨物旅客輸送付加費などの徴収によって賄うとしている。
三 国際的経済交流とインフラ整備
吉林省の省都長春では2005年から毎年、北東アジア投資貿易博覧会が開かれているが、その度に国際的交通ラインの建設が論じられる。2005年の第一回目には、中国・ロシア間陸路と中国・朝鮮間陸路の一体化が語られ、相前後してプロジェクトが動き出したといわれる。2006年にはモンゴルのチャオバ山と中国のアルル山間のプロジェクトが着工し、吉林省内の鉄道連結も加速化され、最終的には新しいユーラシア大陸ブリッジが形成されるとしている。
2006年の第二回北東アジア博覧会では、吉林省琿春市政府とロシア、韓国、日本などの一部企業との間で、中国・ロシア・韓国・日本を結ぶ定期航海船の就航について合意に達したといわれる。2007年9月に開かれた第三回北東アジア博覧会においては、ハルピン―大連間旅客専用高速鉄道線(総投資額900億元余り、時速200キロ、最高速度350キロ)、長春―吉林間都市軌道鉄道など四プロジェクトについて、海外の投資者が募られたといわれる。
国務院東北振興弁公室主任張国宝は、8月20日、「東北振興は対外開放の更なる拡大に依拠しなければならず」、「中国東北地域は北東アジアの中心にあり、とりわけロシアの極東地域と非常に長い国境線を有しているため、北東アジアの対外協力の中で、ロシア極東地域との協力はたいへん重要な地位を占めている」と語った。
黒竜江省と内蒙古東北部においては、すでに「ロシアに開放された口岸を核心として、鉄道、道路、水運、航空など多種類の輸送方式で構成される輸送ネットワークが形成された」。今後の課題は、中ロ経済交流の発展に対応して、如何にして交通インフラ施設の質を高め、輸送環境を大いに改善していくことである。
2007年の黒竜江省対ロシア貿易額は70億ドルだが、2010年には倍増させ140億ドルに達するという。「黒龍江省口岸運輸計画」によると、2010年の口岸輸出入貨物輸送量は2598万トンであるが、2015年には4787万トンに増加し、全省の対ロシア輸出入総額は294億ドルに達するという。2020年には、更に6109万トン、453億ドルに達するとしている。
このような貿易の急速な発展に対応するべく、中国とロシアの当局は、交通インフラの建設を加速化し、物流、人的交流、情報交流をスムーズに進めることについて共通認識を持つに至ったと言われる。黒竜江省、内蒙古、新疆の中長期交通発展計画によると、今後5年から10年にかけて、中国側によって次のようなプロジェクトが実施される。1)満州里―ハルピン間高速道路、2)ハルピン―綏芩河間高速道路、3)ハルピン-同江間高速道路、4)ハルピン―黒河間高速道路、5)黒竜江、松花江などの河川整備、6)中国西北地域(新疆)対ロシア通路の開拓。これら高速道路及び河川の整備は、何れもロシアに通ずる国際的交通網の一環となる。
朝鮮の2006年度対外貿易額は約20億ドルで、その額は小さいが、ここ数年、増加傾向にある。今年5月にはピョンヤンで国際商品展示会を開き、商品の輸出及び外資の導入にその意欲を見せた。展示会には13の国・地域の220社が参加したといわれる。この展示会で、貿易関係を発展させたばかりでなく、朝鮮と海外企業との間で合資合営意向書が少なからず交わされたとのことである。
朝鮮は早くも1984年に「合資経営法」を制定し、対外開放に乗り出そうとした。しかし、経済的政治的諸要因によって軌道に乗せることができなかった。2004年の外資導入額は僅かに5900万ドルで、そのうち、中国の投資額は5000万ドルと約85%を占める。朝鮮は中国企業の誘致活動を積極的に展開し、2005年2月には北京で企業誘致説明会を開いた。こういった努力が、一部中国企業を朝鮮に進出させることになったと思われる。
2005年7月1日、朝鮮は経済政策調整を行い、市場原理を大幅に取り入れた。この改革はたいへん注目され、本格的改革が始まるかもしれないという期待を人々に持たせた。しかし、05年7月、偽札とマネーロンダリング問題を理由に、米国の対朝鮮経済制裁が実施され、朝鮮の対外開放は又もや挫折した。今年(2007年)に入って、米国の対朝鮮政策の調整が行われ、米朝関係は改善の兆しを見せている。韓国の朝鮮に対する積極的対応もあって、朝鮮の対外開放が本格化する可能性が出てきた。こうした中で、中国と朝鮮との経済交流は一層深まっていこう。
2006年1月、金正日総書記が中国を訪問し、温家宝総理が会見した際、温総理は「政府誘導、企業参加、市場メカニズム」の経済協力方針を打ち出した。伝統的な一方的供与方式ではなく、「互恵互利、共同発展、協力共勝」の新方式を採用したいというメッセージを伝えたのである。中国のこういった意向に応える形で、ここ数年、朝鮮は中国企業を受け入れるばかりでなく、朝鮮企業の海外進出にも力を入れている。
朝鮮の対外開放が進むにつれて、韓国と朝鮮を連結する鉄道も開通する方向にある。振興計画には「東北地域の東部鉄道を整備する」とあるが、これは朝鮮半島の今後の発展を念頭に入れたものであろう。中国・朝鮮間では、すでに道路や鉄道の建設面で協力が行われてきたが、今後、ますますその規模が拡大していくであろう。
結びに代えて
中国の東北振興計画は15年間(2006-20年)を対象としたもので、北東アジア経済協力に大きな影響を与える。先ず、東北経済の振興によって経済的実力が強化され、北東アジア協力を推進する大きな力となる。次に、東北地域の交通インフラが整備されることによって、周辺諸国、とりわけロシアとの交流が促され、北東アジアの経済的一体化を促進する。第三に、中国・ロシア主導の北東アジア経済振興によって、日本の積極性が喚起される。政治的要因によって日本の北東アジアへの参入度が制約されていたが、それが崩れていく運命にあるからである。第四に、東北振興は日本と朝鮮双方の頑なな外交の見直しを迫り、日朝関係の正常化を促す。日本の今後の発展と安全確保には、また朝鮮の体制維持には、北東アジア経済への積極的参入が不可欠となるからだ。最後に、中長期的には六カ国協議のスムーズな進展を促し、北東アジアの安全保障体制の確立に寄与する。米国も北東アジアに経済的利害関係を見出し、より理性的且つ合理的な対応をする可能性が出てくるからである。
2007年11月13日

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