8月29日から9月5日にかけて、「大陸と台湾に進出した新幹線技術視察訪中団」に参加して、日本の新幹線技術を取り入れた青島―済南間及び台北―高雄間の高速鉄道を試乗した。中国大陸、香港、台湾を巡り回って、日本鉄道技術の海外での応用を検証することにあったが、私と家内にとっては、はじめて訪問する台湾の政治経済社会に大きな関心があった。
台北―高雄間の高速鉄道はBOT方式で新会社「台湾高鉄」が建設を受け持った。既存の台湾鉄道会社は政治がらみの旧いしらがみがあるため、それを避けるために全く新しい会社を作った。それは、経済技術面から見ると極めて非合理的とのことだ。但し、この高速鉄道の建設によって、サラリーマンが家賃・物価の安い高雄から勤め先の台北に通う傾向が出てきており、高雄の不動産価格は上昇、南部の経済振興に好影響を与えている。今のところ、乗客は限られており、本数も目標の半分くらいであるが、数年後には乗客と本数が増え、黒字になる見通しとのことだ。
高雄の駅は空港のような立派なターミナルであった。その周辺は空き地が広がり、今後の発展を予想させる。かねてから南北格差を耳にしていたが、台北と高雄の格差は歴然としておりちょっとびっくりした。もちろん、中国大陸の沿海部と内陸部の格差ほどではないが、日本の均衡ある発展と比較した場合、かなり深刻な経済問題であると見ざるを得ない。高速鉄道の建設がその格差縮小に大きな役割を果たしたと評価される日はさほど遠くないであろう。
台北の主要観光地を回ったが、第一の印象は社会が極めて安定していて、テレビの世界とは大きく異なるということであった。台湾のテレビが視聴率を高めるために、「統一独立」問題などをことさらドラマティックに取り上げる。日本や中国では、更にそのうちの目ぼしいものを取り上げる。そのため、台湾はまるで政治劇に終始しているような錯覚に陥る。実際には、日本が小泉劇から脱したように、台湾も陳水扁の台独劇から抜け出して理性的雰囲気に変わっているように感じた。
第二の印象は、台湾の脱蒋一家化は着実に進んでいる。あちこちに建てられていた蒋介石の石像は殆ど全部が撤去されているとのことだ。今年5月10日、蒋介石を称えた中正記念堂は「国立台湾民主記念館」に改称することが決まり、展示換えをしているところであった。しかし、蒋介石が台湾で築いた経済基盤および蒋経国の切り開いた民主化は、そのうちに歴史的評価が下されることとなろう。
第三に民進党政権は脱中国化を推進しているが、それは不可能ということを強く感じた。先ず言語は共通だし、文化習慣もまったく同じ。ある面では中国大陸よりも、中国文化の伝統を保っている。テレビで孔子廟の記念行事が流されていたが、最近中国大陸でも行われているそれと全く同じである。両岸の経済格差も急速に縮小する傾向にあり、独立を掲げた大衆煽動はますます効き目がなくなっていこう。
台湾経済が中国大陸に依存していることは広く知られているが、社会文化面でも、中国の国際的影響力拡大からメリットを受けている。ガイドさんは筋金入りの台湾独立支持派であるが、最近、外国人が中国語を学ぶために、自分の子供の学校にたくさん来るようになったともらした。中国語学習熱は明らかに台湾の将来を見越してではなく、中国全体の発展を見越してであろう。中国大陸は今のところとっつきにくいが台湾だったらということで、子弟を台湾の学校に入れることは十分に理解できる。
第四に日本の影響力がかなり残っていることが印象的であった。ガイドさんは日本建築物の質の良さを讃えながら紹介してくれた。蒋介石、蒋経国時代は抗日戦争教育をやっていたため、それほどではなかったが、李登輝、陳水扁時代になって盛んに日本を賛美するようになったことは知っていた。それを身をもって体験した。このような日本統治美化は、台湾を訪問した日本人に喜ばれる。しかし、それが日本・中国大陸・台湾の関係をより複雑にし、アジア不安定の一大要因になっている。それは結局、時間の経過によってのみ解決されるであろう。
最後に、中国政府は陳水扁の挑発に乗らないように注意すべきだ。これは以前から筆者が主張してきたことだが、今回、台湾を訪問して、ますますこの意を強くした。陳水扁が「国連加入の住民投票」を打ち出したのは、全く来年の総統選挙対策のためで、中国大陸がこの挑発に乗ることを待ち望んでいる。一時、中国当局は神経質な対応を見せたが、深入りはせず、基本的には挑発に乗らなかった。但し、本当に陳水扁が実施した場合は、台湾独立の行動に出たことを意味し、そのための準備は十二分にしておく必要がある。結局、両岸関係は当面、現状を維持し、時間をかけて連邦制に向かっていくことが最良の選択だ。
2007年12月7日

コメントする