全人代:二期目に入った胡錦濤?温家宝体制

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昨年10月、中国では第17回党大会が開催され、共産党の新人事と政治活動報告によって、胡錦濤体制二期目の方向付けがなされた。今年3月の全人代で決まった政府の新しい首脳人事と温家宝の政府活動報告により、胡錦濤?温家宝体制の二期目が本格的に始動した。

胡錦濤、温家宝二氏は古い共産党体質の下で育った最後の最高指導者である。ポスト胡錦濤の指導部は基本的に改革開放政策下で育った世代から構成される。したがって、二期目の胡錦濤体制が中国の政治体制をどのような方向に導いていくのかが注目されている。即ちここ30年間、漸進的に進められてきた専制的社会主義から民主的社会主義への移行は決定的な成功を収めることが出来るか否かが問われているのである。それを基軸として、中国の経済、政治、外交などについて論じてみたい。

 

一 和諧社会実現の経済的基盤作り

 1 インフレに直面する中国経済

 過去五年間、中国経済は年平均伸び率10.6%の成長を遂げ、07年度は11.4%であった。政府の年初目標は8%前後であったから、それをはるかに上回ったことになる。他方、消費者物価上昇率は4.8%と政府の3%以内という目標を超えた。と言うことは、国民経済のマクロコントロールがしっかり行われなかったことを意味する。政府活動報告は、物価上昇は構造的要因によるもので、普通言われるインフレにはまだなっていないとしているが、それは説得力に欠ける。

 昨秋頃から物価上昇は激しさを増し、一部経済学者がインフレ対策をとるよう主張していた。しかし経済成長重視派の影響が強く、十分な対策はとられなかった。その結果、今年に入ってますます物価上昇が速まり、1月は対前年比で7.1%、2月は8.7%上昇している。上昇の主要原因は食品価格の急騰にあり、2007年全年を通して12.3%上昇した。20081月の食品価格は071月に比べて18.2%も上昇した。食品価格の急騰は低所得者の生活への影響は極めて大きく、社会問題に波及する可能性がある。そこで政府はこの問題を極めて重視し、一連の対策を打ち出した。

 温家宝総理は記者会見で「当面、最大の困難は物価上昇が速すぎ、インフレの圧力を受けていることである」と率直に認めた。そして政府活動報告の中で「穏健な財政政策と引き締めの金融政策を実行する」としている。また「有効供給の増大と非合理な需要抑制の二つの面から有力な措置を取る」とし、次の九つの対策を打ち出している。

 1)大いに生産を発展させる。とりわけ食糧、食用植物油、肉類など生活必需品の生産に力を入れる。                           

 2)工業用食糧と食糧の輸出を厳格にコントロールする。

 3)貯蔵システムを整備し、国内で際立って不足する消費財については輸入量を増やす。

 4)資源的製品価格と公共サービス価格を厳格にコントロールし、値上げの相互影響を防ぐ。

 5)農産物、第一次産品の需給関係と価格の変動状況のモニタリング制度を確立し、応急対策がとれるようにする。 

 6)市場と価格への監督を強化し、教育費、医療?薬品価格、農業資材価格などへの監督を強化する。

 7)低所得者への補助方法を改善し、生活困難者や家庭困難な学生への補助金を増やす。

 8)生産資材、とりわけ農業用資材の価格急騰を抑える。

 9)食糧の省長責任制と野菜など副食品の市長責任制を堅持する。

 財政政策面からの物価対策、引き締め気味の金融政策、人民元レートの上昇トレンド、十分な食糧備蓄、供給過剰気味な工業消費財などの諸要因を考えると、長期にわたるインフレになる可能性は小さいと思われる。昨年の物価上昇率を維持することは、そう難しいことではないであろう。

表一 主要経済指標

項 目              2003  2004  2005  2006  2007

国内総生産(兆元)                    13.58   15.99    18.39   21.09    24.66  

 伸び率(%)                         10.0    10.1     10.4    11.1     11.4

消費者物価上昇率(%)                 1.2      3.9      1.8     1.5      4.8

各種税収総額(兆元)                   2.05     2.57     3.09   3.76     4.94            

 伸び率(%)                         20.4     25.7     20.0    21.9    31.4

固定資産投資額(兆元)                 5.56     7.05     8.88    11.00   13.72

 伸び率(%)                         27.7     26.6     26.0    23.9     24.8

工業生産(付加価値ベース)伸び率(%)  12.8     11.5     11.6    12.9     13.5

エネルギー消費量(標準炭換算億トン)   17.50   20.32    22.47    24.63   26.55

 伸び率(%)                          15.3    16.1     10.6     9.6      7.8

食糧生産量(億トン)                    4.31    4.69     4.84   4.98     5.02

社会消費財小売総額(兆元)              5.25    5.95     6.72    7.64     8.92

 伸び率(%)                           9.1     13.3    12.9    13.7     16.8

都市住民一人当たり可処分所得()    1472    9422    10493  11759    13786

 伸び率(%)                           9.0     7.7      9.6     10.4     12.2    

農村住民一人当たり純収入()            2622    2936     3255   3587     4140

 伸び率(%)                           4.3     6.8       6.2    7.4       9.5 

住民預金残高(兆元)                    10.36   11.96     14.11  16.16     17,25

 伸び率(%)                           19.2    15.4      18.0   14.6      6.8

輸出額(億ドル)                        4382    5933      7620   9689    12180

輸入額(億ドル)                        4128    5612      6600   7915     9558

輸出入総額伸び率(%)                   37.1     35.7     23.2    23.8     23.5

外貨準備高(億ドル)                     4033    6099     8189   10663   15282   

 (資料来源:国家統計局2008228日発表)

 

2 内需主導の高度経済成長

 過去五年間の高度成長は、主として設備投資と輸出に支えられてきた。この間の固定資産投資伸び率は平均して25%を上回り、輸出伸び率は更にそれを上回る。07年の輸出額は25.7%増の12180億ドルで、輸入額は20.8%増の9558億ドル、貿易黒字は2622億ドルに達した。今世紀に入って、国際収支の黒字不均衡が顕著となり、若干の輸出抑制策と輸入奨励策がとられるようになった。しかし、元為替レートが低すぎるため、貿易収支の大幅黒字基調は改善を見ることができなかった。(表一参照)

 しかし、2005年度からは為替レート制度の改革が行われたことで、人民元レートは弾力性を持つようになり、対ドルレートは徐々に上昇するようになった。2007年度末の対ドルレートは7.3046元で、06年末に比べて6.9%上昇した。今年も、710%の上昇を見ると思われる。これにより輸出抑制、輸入促進の効果が出て、貿易黒字が縮小に向かうであろう。且つそれは、対外不均衡を改善するばかりでなく、交易条件の改善により、中国国民が豊かさを実感できるような変化をもたらすであろう。

 更に重要なことは、中国政府の諸政策が実行されることによって、今まで低潮だった個人消費が引き続きかなりの伸びを示すと予想されることだ。三大格差、即ち都市と農村間の格差、沿海地域と中西部地域の格差、住民の所得格差の拡大により、中国の個人消費は大きな制約を受けていた。しかし、最低賃金のアップ、「三農」(農業振興、農民所得増大、農村建設)支援策の実施、中西部開発戦略(1999年開始)の展開などにより、基本建設投資と個人消費からなる国内需要が経済成長のエンジンとなりつつある。即ち、外需依存型経済成長と言われてきた中国経済が内需依存型経済成長に大きく転換しつつあるのである。

 ここで注意すべきは税収入の大幅増加である。それには、日本の高度成長期と同じように膨大な超過税収が伴う。2007年の中央?地方税収総額は4.94兆元で、31.4%増であった。増加額の約半分は超過税収で、この豊富な資金で諸政策を実施に移すことができる。いままで格差縮小政策は口先だけで、目に見える成果は乏しいと言われてきたが、ここ数年、効果が実際に見られるようになった。今後、この傾向はますます顕著となっていくであろう。

 2008年の主要経済目標は下記表二の通りだが、経済成長率を8%前後に収めることは難しく、一般に9%台と見られている。

 

表二 2008年の主要目標

項 目         07年度目標   07年実績   038年目標

国民生産伸び率(%)       8前後     11.4     8前後

消費者物価上昇率(%)      3以内      4.8     4.8前後

都市部新規雇用者(万人)     900以上    1204    1000

登録失業率(%)         4.6以内     4     4.5前後

「三農」支出額(億元)      3917      4318    5625

財政赤字規模(億元)       2450      2450    1800

建設国債発行規模(億元)      500      500     300    

 (資料来源:温家宝政府活動報告など。)

 

国連アジア太平洋経済社会委員会が最近発表した「2008年アジア太平洋経済社会概観」は、中国の力強い国内需要が海外からの経済ショックを防御できるため、例え米国経済が衰退期に入っても、その影響を余り受けないであろうと予測している。実質金利が相対的に低いため、投資は引き続き力強さを示しており、且つ賃金アップによって、都市部での個人消費は旺盛で、ここ10年で最高の伸び率を示している社会消費財小売総額は堅調に推移すると見られるとしているのである。(人民日報42日)

 

 3 新自由主義の克服

 中国経済は1990年代から今世紀初頭にかけて、世界経済のグローバル化が進む中で市場万能論を唱える新自由主義の影響を受けた。その結果、経済は発展したが、格差拡大、環境破壊など不均衡が拡大した。去る五年前、胡錦濤が最高指導者になってからは、その是正策に乗り出し、「人を以って本と為す」「科学的発展観」「和諧(調和の取れた)社会論」などを提起するに至った。

「人を以って本と為す」とは、今まで「物を以って本と為す」という物質主義に偏っていたが、それを人本主義、つまり国民の生活改善と幸福を目標とするように是正すると言うものだ。また「科学的発展観」とは、全面的な、均衡の取れた、持続的発展可能な経済成長を図るというもので、今までのGDP第一主義から脱皮するということである。「和諧社会」とは各方面の利害関係が調和され、みなが満足できる社会をつくるというものである。毛沢東は階級闘争論を強調し、調和論を修正主義として批判した。胡錦濤は和諧社会構築こそが、マルクス主義の真髄であるとした。科学的発展観と和諧社会論は、昨年の党規約改正で規約として書き込まれ、今回の全人代でも具現されている。

政府活動報告のなかで注目すべきものとしては、今まで言われてきた「成長方式の転換」が「発展方式の転換」に替わったことが挙げられる。これは2007年に胡錦濤が中央党学校での講話で初めて提起したものである。「成長方式の転換」とは、主として経済的概念に限られ、粗放経済を集約経済に転換して効率を上げるということが課題とされる。それに対し、「発展方式の転換」は更に範囲が広く、生産要素の投入構造、社会のニーズ構造、産出された製品構造、所得分配の構造なども問われ、経済、技術、社会、文化、政治など諸方面に関わるシステム工程であるとする。つまり経済効率だけでなく社会効果も考えなくてはならないというのである。

現在、世界的に新自由主義への反省が行われているが、中国の胡錦濤政権は最も明白な形でその是正を図っていると言えよう。

 

二 行政機構改革と政治改革

 1 環境と民生重視の政府機構改革

  今回の全人代では国務院機構改革案が可決され、政府機能転換の一大措置として大きく取り上げられた。中国は改革開放以降、すでに五回にわたって機構改革が行われ、今回が六回目である。これもまだ過渡的なものであり、「2020年までに、(1)政府機能の、良好な発展環境の創造、優良な公共サービスの提供、社会的公平?正義の維持に向けての根本的転換、(2)政府組織機構と定員配置の科学化、規範化、法制化に向けての根本的転換、(3)行政運営メカニズムと政府管理方式の規範秩序化、公開透明化、利便且高効率化に向けての根本的転換を実現し、国民の満足できる政府を構築する」としている。

 新設部門は次の通りである。

 1 工業?信息(情報)化部。いままで国家発展改革委員会に属していた工業業種管理の部門と国防科学工業委員会のうちの原子力発電管理機構を除いた部門が信息産業部と合併してこの新部門が形成される。情報化と工業化を同時達成することが謳われて久しいが、その行政的矛盾を解決しようとしているものである。

 2 交通運輸部。中国民用航空総局の職責と建設部の都市旅客輸送の職責が整理統合され、道路、水路、航空の交通運輸一体化管理が図られる。国家郵政局もこの部に属し、統一管理される。本来、鉄道部も合併されるべきであったが、今回は見合わせとなり、将来、引き続き改革されるとしている。

 3 人力資源?社会保障部。人事部、労働社会保障部の職責が整理統合され、人的資源管理と社会保障政策の一体化が図られる。それには公共就業サービスシステムの整備、労働所得分配制度の整備、労働監察組織の整備などが含まれる。

 4 環境保護部。国家環境保護総局を昇格させたもので、環境重視の現れとされている。

 5 住宅?都市農村建設部。農村の都市化が進められているなかで、都市と農村の建設を一体化させる必要が出てきた。住宅建設が重視され、安全建築や不動産市場の管理なども含まれる。

 以上五つの部門の新設に伴い、国防科学技術工業委員会、信息産業部、交通部、人事部、労働?社会保障部、建設部はそれぞれ廃止された。

 今回の改革は「大部制改革」と言われ、市場経済化の進展にあわせて、政府の機能転換を図るとともに、政府部門の職責交叉及び権限?責任乖離の状況を改善し、権力の過度の集中を改め、チェック監督機能の不備を改善しようとするものである。だが今回の改革を経ても、国務院は依然として28部門もあり、日本の12、米国の15、英国の17よりもはるかに多い。部門削減と調整は既得権益集団の利害関係に関わるため、大きな困難を伴う。今回の改革で部門は一つ減っただけだが、機能調整が行われたため、行政効率はそれなりに向上することが期待される。

 今回の行革における特徴の一つは、国家発展改革委員会の工業業種管理の権限を削ぎ、ミクロ管理事務?審査事項を大幅に減らしたことである。この委員会の前身は国家計画委員会で、計画経済時代、絶大な国有企業管理権限を握っていた。その名残が依然としてあったのだが、今回の改革でマクロコントロールに徹することとなった。今後は国家発展改革委員会と財政部及び中国人民銀行によって協調メカニズムが整備され、経済運営のマクロコントロールが強化されるであろう。なお、国家発展改革委員会の下には国家能源(エネルギー)局が新設され、エネルギー管理機構の強化とエネルギーの安全保障が図られる。

 

2 旧態依然たるトップ人事の選出

 今回の全人代で、昨年の党人事ですでに予想された通りのトップ人事交代が行われた。習近平が国家副主席に、李克強が筆頭副総理に選ばれた。これによって、五年後のポスト胡錦濤?温家宝体制は習近平?李克強体制に移行するものと一般には受けとめられている。しかし私見では、透明性に欠ける従来のトップ選出方式が五年後に継続されるかどうかは甚だ疑問である。

新代表の多くは以前より教育レベルは高く、旧態依然たる選出方式には疑問を抱いているようだ。全人代の常務委員161人のうち、75.2%が新人で、政治協商会議常務委員298名のうち、70.5%が新人であることも見逃せない。

現在すでに下級レベルでは、透明性ある人事制度改革が行われている。例えば江蘇省南京市では、四つの局長ポストを巡って16人の候補者が争い、テレビで実況放送されたと言う。(人民日報08327日)江蘇省は胡錦濤に近い李源潮が昨年まで省書記を勤めたところで、彼は目下中央の組織部長として辣腕を振るっている。テレビで競い合うやり方は、西側諸国の大統領選挙を連想させる。保守的な共産党の古参高級幹部の影響力によって、当面は民主的選挙が行われないにしても、五年後には新しい方式で選出される可能性は十分にある。

同じ社会主義国のベトナムでは、昨年、国会議員の選挙について、複数候補への民主的選挙が行われた。(注1)これは中国の党員やインテリ層に大きなインパクトを与えているようだ。遅れて改革開放に入ったベトナムができたのに、なぜ中国ではできないのかという疑問が湧いていると聞く。

また、今回の台湾総統選挙で馬英九が勝利したことも、中国大陸の政治改革に良い影響を及ぼすであろう。台湾が国民党の一党独裁から脱皮して、現在の成熟した民主主義政治を確立する過程は茨の道であった。四年前の総統銃撃事件でチャンスを逸した国民党が、今回の大勝を果たしたことにより中国大陸との対話が実現できる見通しとなった。このことは、中国のインテリ層に民主的選挙の力を感じさせるであろう。台湾の民主主義は、結局、金権政治であり、学ぶに値しないと言う今までの論調が覆るからである。

もちろん、中国が台湾の政治制度を取り入れることはありえない。ただし、胡錦濤の目指す党の指導性確保、人民民主、法治国家の三結合政治制度の確立に当たっては、民主的選挙は欠かせない。今後は、政治改革の実験が行われ、トップレベルの選出にも、透明性のある民主的方法が適用される可能性は十分にあると思われる。

もう一つ注目すべきは、胡錦濤が周恩来生誕110周年記念座談会で行った講話である。胡錦濤は周恩来の理論的功績を高く称え「毛沢東思想の形成と発展に重要な貢献をしたばかりでなく、後の改革開放時期にわが党が中国的特色ある社会主義理論体系を形成する上でも、重要な思想材料を提供した」と述べている。(注2)即ち、胡錦濤は、毛沢東の「階級闘争至上論」を排して、「和諧社会論」を説き、鄧小平?江沢民の「経済成長主義」と「物を以って本と為す」を排して、「科学的発展観」と「人を以って本と為す」を説いているが、その源泉は周恩来理論にあるということであろう。

このように見てみると、胡錦濤は第一世代毛沢東、第二世代鄧小平、第三世代江沢民、第四世代胡錦濤という非科学的世代論の通論を超えて、周恩来、胡耀邦の開明的理論と作風を継承しなくてはならないと語っているように思われる。科学的発展観は党と政府のトップ人事にも当てはめなくてはならない。とすれば、今から五年後のトップ人事を予想するのは時期尚早というべきであろう。

 

3 和諧世界を目指す中国外交の試練

 胡錦濤は和諧社会論を対外関係に拡大し、和諧世界論を説いている。和諧世界とは、低次元と高次元の間に、多くの段階を設けることができる。当面の和諧世界は宗教紛争や民族紛争をなくし、平和と発展の世界を築くことである。更には発展途上国の経済発展と社会の融和を実現し、南北格差を縮小していくことである。更に高い次元では、現在の先進国主導の国際政治経済秩序の不合理な部分を改革することである。中国外交の長期目標は高次元の和諧世界を実現することにあり、「如何なる形の覇権主義と強権政治に反対する」としている。

 中国の二桁の軍事費増大と国防力増強がよく西側諸国で語られるが、中国の目的は明らかに超軍事大国の覇権主義へのけん制であり、多極化によって勢力均衡の平和秩序を確立することにある。それは、単独行動主義に基づく国連無視のイラク侵攻が二度と侵されないためであり、超大国の国民の利益にも通じる。中国のこのような思惑は、自国の役目を終えた人工衛星を打ち落とした後で、ロシアと共に米国に宇宙の平和利用条約を締結するよう申し込んだことに端的に現れている。しかし、超大国によって無碍にも断られた。まだ力不足だったのである。超軍事大国が核兵器廃絶と宇宙の平和利用条約締結に賛成するまで、中国の国防力増強は続くであろう。

 しかしながら、現在の国際政治では、ソフトパワーがますます重要視されている。この中で中国は経済力や国防力などハード面の国力増強を図るばかりでなく、国際協調の姿勢を鮮明にし、「平和、発展、協力」の旗印を掲げ、「独立自主の平和外交政策」を堅持するとしている。だが、中国は多民族国家であり、今回のチベット騒乱に見られるように少数民族問題を抱えている。更には、より重要な台湾問題を抱えている。そのため、統一した国民国家が形成されたとはまだ言えない面がある。このような状況は、現在の国際政治の下での外交をたいへん難しくしており、中国が国際的信用を得るのは至難な業である。大衆外交と経済外交を推進し、草の根レベルからソフトパワーを強化しようとしているが、問題解決にはまだかなりの時間を要するであろう。

 現在、世界のグローバリゼーションが進む中で、インタナショナリズムとナショナリズムの矛盾激化が世界的現象となっている。中国でも狭隘なナショナリズムがかなり強くあり、中国の国際的イメージを悪くしている。それに加えて、中国の政治体制の不備も災いしている。外交は国内政治の延長線にある。中国の政治改革が進んだ時にはじめて、中国のソフトパワーは強化されていこう。

 

結び 日中関係の在り方

 中国の経済発展と国防力の増強を押し止めることはできない。中国が多くの問題を抱えているからと言って、二桁の経済成長を遂げている共産党政権が崩壊することなどは到底考えられない。中国を見るときは、成熟した現在の日本ではなく、高度成長を遂げていた1960年代の日本の社会矛盾を念頭に入れて見るべきだ。

超大国米国と潜在的超大国中国のはざまにあって、日本は対米関係と対中関係の二軸論で進む選択を余儀なくされている。したがって、日本は中国の経済発展を自らの経済発展に取り込み、中国の安全保障政策を自らの安全保障戦略に取り込む必要がある。平和友好の戦略的互恵関係を構築することはそれに通ずる。福田首相の「日米同盟とアジア外交の共鳴」論は正にこのような考えに基づくものであろう。

 

200847

注1  2007年五月に行われたベトナム国会議員選挙は、定数2人区3人区で構成され、総定数は500人である。5年に一度の選挙は中選挙区制による直接投票で行われ、立候補者数は定数プラス2で、有権者には一定の選択の幅がある。候補者は「ベトナム祖国戦線」の審査を必要とするが、党?政府機関推薦候補と自薦候補(自ら進んで立候補する)に分かれ、以前と比べると民主的となった。中国は人口が多く国土も広いから、全国的人民代表の直接選挙は無理にしても、ベトナムの状況に照らせば、省レベル人民代表の直接投票はできるはず、ということになる。

注2 胡錦濤は講話の中で、周恩来の革命精神と高尚な品格を称えるばかりでなく、理論的功績を次のように述べ高く評価した。「彼は、経済建設活動は国家活動全体の中で『主要な地位を占め』、その国が経済的に完全な独立ができなければ、政治的にも完全な独立はなしえないと強調した。彼は各種関係を正しく処理し、全体的企画、全面的配慮、総合的バランス、協調的発展を図らなくてはならないと強調した。彼は『わが国は経済建設ばかりでなく、政治建設や精神建設もしなくてはならない』、社会主義建設は全面的発展でなくてはならないと強調した。彼は必ず環境保護を重視しなくてはならず、経済発展のために環境を犠牲にしてはならず、後世の子孫に済まないことをしてはならないと強調した。」これらの言葉は、周恩来こそは、経済発展の重要さ、全面的発展、均衡的発展、持続的発展という科学的発展観を先見的に語っていた、と評価しているのだ。そして、周恩来は長期にわたる実践の中で、「深く理論的思考をめぐらし、党の理論と路線、方針、政策を掘り下げて論述し、政治、経済、軍事、外交、統一戦線、文化教育、党の建設などの分野で理論的創造を行った」と称えている。胡錦濤のこの重要な講話は、即刻単行本として出版され学習資料となった。

 

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このページは、凌星光が2008年4月 7日 22:36に書いたブログ記事です。

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